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《ノースロップ・グラまんが》近未来防衛戦闘のリアル──第1回 監視の大空:MQ-4Cトライトン

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2025-1-21 11:55

アメリカの防衛企業ノースロップ・グラマン社が、日本に提案する先進装備を漫画で紹介するシリーズ「近未来防衛戦闘のリアル」の第1回。高高度を24時間飛行して洋上監視を実施する無人機、MQ-4Cトライトンを取り上げます。おぐし篤 OGUSHI Atsushi

◎本記事は月刊『Jウイング』との連動企画です。

解説:洋上監視無人機MQ-4Cトライトン

漫画では文字通りの「千里眼」(正確には1000 海里眼)の監視能力を見せつけた、MQ-4Cトライトン。解説編では、その能力の高さと日本に導入することのメリットを解説しよう。 ──稲葉義泰 INABA Yoshihiro

常続的な海洋監視をいかに実現するか

 広大な海洋で今現在何が起きているかを把握する手段として、これまで各国は有人哨戒機を運用してきた。しかし、有人機では連続運用時間や飛行高度などが限定され、カバーできる海域も制限されてしまう。また、24時間365日にわたる常続的な海洋監視の実現も難しくなるため、何らかの有事が生起した場合であっても、その兆候の察知や事態の把握そのものが遅れてしまう可能性も否めない。そこで、そうした問題をテクノロジーの進歩によって解決するべく、登場してきたのが無人航空機だ。

 アメリカ海軍では、有人哨戒機のP-8Aポセイドンと連携する無人航空機として、ノースロップ・グラマン社製のMQ-4Cトライトンの運用を開始している。MQ-4Cは、同じくノースロップ・グラマン社が開発したHALE(高高度長時間滞空、ヘイル)型無人偵察機であるRQ-4グローバルホークをベースに、洋上監視能力に特化した機体として開発された機体で、2020年に早期作戦能力(EOC)、2023年に初期作戦能力(IOC)をそれぞれ獲得している。

P-8ポセイドン。トライトンと連携して洋上監視を実施する有人機で、アメリカ海軍以外に、インド海軍、オーストラリア空軍などが運用している。写真:アメリカ海軍

MQ-4Cの優れた性能

 MQ-4Cは、高度1万5000メートルという高高度において24時間もの連続運用が可能なHALE型無人航空機であり、主なセンサーとしては、XバンドのAESA(電子走査式アレイ、エイイーサ)レーダーであるAN/ZPY-3 MFAS(多機能アクティブセンサー、エムファス)、EO/IR(電子光学・赤外線)センサーであるAN/DAS-3マルチスペクトラル ターゲティングシステムなどを備えている。また、洋上哨戒任務を実施するための機体ならではの装備として、AIS(船舶自動識別システム)を装備しており、これにより海上を航行する船舶の動向を逐一把握することができるほか、AN/ZPY-3やAN/DAS-3といった他のセンサー情報を組みあわせることで、AISを切った状態で航行する不審船舶の発見にも有用だ。

 さらに、2023年6月に納入されたMQ-4Cのアメリカ海軍向け量産初号機(累計では4号機)からは、電波情報を収集するSIGINT(電子信号偵察、シギント)機能が付加されている。これは、他国の艦艇や航空機、地上施設などから発せられるレーダーや通信といった電波情報を収集するための機能で、これを実施するためのセンサーとしてAN/ZLQ-1バージョン2およびAN/ZSR-1が搭載されている。アメリカ海軍では、SIGINT任務のため長年運用してきたEP-3EアリーズⅡ電子偵察機をMQ-4C(および必要な改修を加えたP-8A)で置き換えることとしている。

MQ-4Cトライトンの搭載装備
オーストラリア空軍向けのMQ-4Cトライトン 写真:ノースロップ・グラマン

高高度を飛ぶことのメリット

 MQ-4Cが高高度において長時間運用可能という点は、広大な海域をカバーする必要がある哨戒機としては大きなメリットがある。

 高度が高ければ、それだけ広い範囲をセンサーの覆域内に収めることができる。言い換えれば、低高度を飛行する無人機と同じ時間だけ飛行した場合に、MQ-4Cの方がより広い海域を監視することができる。その広いエリアを24時間にわたり監視することができるのだから、1回の飛行で効率よく広大な海域をカバーすることができるわけだ。

 今回の漫画でも、イカロス諸島周辺の海域に展開した複数の艦隊を1機のMQ-4Cでカバーできるのは、高高度を飛行できる同機ならではの芸当といえる。ノースロップ・グラマン社の試算によると、同様の任務をこなすMALE(中高度長時間滞空、メイル)型無人航空機とMQ-4Cの性能を比較した場合、任務の効率性は33%向上する一方、飛行時間は60%ほど少なくて済むため、運用コストが50%ほど削減できるという。

 また、高高度を飛行することは、機体の安全面においても大きな意味がある。まず、射高数キロメートル程度の携帯型防空システムであるMANPADS(携帯式防空ミサイルシステム、マンパッズ)や機関砲では撃墜することができないため、任務を安全に遂行することができる。また、一般的なジェット旅客機が飛行する高度は約1万メートル前後であるため、それよりもずっと高い高度を飛行するMQ-4Cは民間機との空中接触の可能性がほとんどなく、したがって安全かつ自由に任務を遂行することが可能となるわけだ。

MQ-4Cがこなす多様な任務

 MQ-4Cは、単に洋上の艦艇を監視することだけを任務としているわけではなく、実に多様な任務をこなすことができる。

 たとえば、離れた水上艦艇同士の通信を中継するための通信中継装置を装備しているため、近年アメリカ海軍が進める「DMO」(分散型海上作戦)コンセプトにおいては、分散配置された艦艇同士をネットワークで結びつけるための重要なアセットとなる。

DMO(分散海洋作戦)のイメージ図
DMOのコンセプトは、艦隊や味方の航空機を広く展開し、ネットワークで繋いで広範囲の制海を実現するというもの。イラスト:おぐし篤

 加えて、戦術データリンクのLink16に対応しているため、収集した情報を他の艦艇や航空機と共有し、現場指揮官の意思決定を直接的に支援することも可能だ。将来的には目標情報をリアルタイムで共有するCEC(共同交戦能力)用の端末をMQ-4Cに搭載することで、艦艇同士で射撃管制に必要な情報を共有して自艦のレーダー覆域外を飛行する目標に対処する「NIFC-CA」(海軍統合火器管制―対空、ニフカ)に参加することも計画されている。

海上自衛隊における有用性

 そんなMQ-4Cだが、日本においても、たとえば海上自衛隊が同機を導入するメリットは多い。

 まず、MQ-4Cはアメリカ海軍のほか、2026年にはオーストラリア空軍でも運用が開始される。この日米豪という、近年安全保障上の連携が強化されている3か国で共通の無人航空機を導入することができれば、平時から有事にかけての情報共有や連携など相互運用性の向上につながる。

 また、今後の海上自衛隊ではアメリカ海軍と同様に「艦艇の分散」を基本とするDMOを運用コンセプトの中核に据えるとしていることから、MQ-4Cが有する高度な情報共有機能・通信中継機能、そして将来的に付加されるとみられているCECは、海上自衛隊にとって極めて重要な存在となることは想像に難くない。なぜなら現状では、アメリカ海軍のE-2D早期警戒機を経由しないとCEC端末搭載イージス艦同士の長距離(見通し線外)通信による高度な情報共有が不可能であるため、海上自衛隊が独自にMQ-4Cを導入すれば、非常に大きな意義を有する。しかもMQ-4Cは、広い範囲で長時間、かつ安全に運用できる。

空自にグローバルホーク、海自にシーガーディアンがあっても

 また、自衛隊ではすでに航空自衛隊がRQ-4を運用しているため、整備や運用面でのノウハウ獲得という面でもメリットがある。

 たしかに、仮に海上自衛隊がMQ-4Cを導入した場合、一見すると異なる組織で同種の機体を運用することは非効率的に思えるかもしれない。しかし、それぞれが異なる運用目的を持つ機体である以上、むしろ各組織の要求にこたえるという観点からは致し方ない選択といえる。

 さらに、現在航空自衛隊がRQ-4を運用している青森県の三沢基地では、ノースロップ・グラマン社の社員からなる「CLS」(ロジスティクスサポート担当契約要員)チームが、整備や運用に関するサポート体制を構築している。もし、海上自衛隊がMQ-4Cを採用し、それを同じく青森県の八戸航空基地に配備するとなれば、三沢基地のCLSがその運用を支援することが可能となり、効率的かつ早期の運用能力獲得が期待される。

航空自衛隊のグローバルホーク高高度滞空型偵察無人機。三沢基地の偵察航空隊が3機を運用中 写真:菊池雅之

 加えて、海上自衛隊では今後退役するEP-3情報収集機の後継として、P-1哨戒機をベースとする「電子作戦機」の開発を実施することとしている。しかし、今後の安全保障環境を踏まえれば、こうした任務は有人機だけではなく無人機も同時に用いた方が、安全かつ効率的に任務を遂行できると考えられる。その観点からも、MQ-4Cは有用な存在となり得る。

 海上自衛隊では、すでに滞空型無人機という名称でMQ-9Bシーガーディアンの導入が決定されているが、これと併せてMQ-4Cを導入すれば、より幅広い任務を効率よく実施することができるわけだ。

(第2回に続く)

おぐし篤OGUSHI Atsushi

漫画家・イラストレーター、イカロス出版、宝島社、KKベストセラーズ、東京書籍等でイラスト、書籍デザインに携わる。イカロス出版にて、漫画『実録!TPC73期』『真伝!空自ファントム』『自衛隊感染予防BOOK』『IBCSマンガでわかるネットワーク戦闘』等作品多数。

稲葉義泰INABA Yoshihiro

軍事ライターとして自衛隊をはじめとする各国軍や防衛産業に携わる国内外企業を取材する傍ら、大学院において国際法を中心に防衛法制を研究。著者に『「戦争」は許されるのか 国際法で読み解く武力行使のルール』『“戦える”自衛隊へ 安全保障関連三文書で変化する自衛隊』(イカロス出版)などがある。

https://x.com/japanesepatrio6

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