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《ノースロップ・グラまんが》近未来防衛戦闘のリアル──第2回 敵艦レーダーをねらえ:AARGM-ER

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2025-2-21 11:55

アメリカの防衛企業ノースロップ・グラマン社が、日本に提案する先進装備を漫画で紹介するシリーズ「近未来防衛戦闘のリアル」の第2回。対レーダー高速ミサイルの最新型、射程とスピードに優れたAARGM-ER(アーガム・イーアール)を取り上げます。おぐし篤 OGUSHI Atsushi

◎本記事は月刊『Jウイング』との連動企画です。

解説:長射程対レーダー高速ミサイル AARGM-ER(アーガム・イーアール)

漫画では空中のF-35Aと地上のランチャーから発射され、長距離を飛翔して敵艦艇に命中したAARGM-ER。解説編では、注目すべき特徴と、日本に導入した際のメリットを解説しよう。 ──稲葉義泰 INABA Yoshihiro

対レーダーミサイルの正統・最新型

 各種のセンサーが提供する「戦場の眼」なしには、現代戦を戦い抜くことはできない。とくに、高速で接近する航空機やミサイルを遠距離から探知するレーダーは、陸海空いずれの戦場においても極めて重要である。例えば、敵の艦艇を足止めしたり、地上施設を制圧したりする場合、先んじて敵艦や防空部隊の対空レーダーを無力化することができれば、その後の作戦で目標にミサイルや爆弾が命中する確率は格段に上がる。そこで登場したのが、敵のレーダーが発する電波を探知し、その発信源に向かって飛んでいく対レーダーミサイルだ。その最新バージョンが、ノースロップ・グラマンのAGM-88G AARGM-ER(AARGM射程延伸型 “アーガム・イーアール”)である。

※AARGM-ER:Advanced Anti-Radiation Guided Missile Extended Range

 AARGM-ERは、1980年代後半から実戦投入が始まった対レーダーミサイルのAGM-88 HARM(高速対レーダーミサイル “ハーム”)、そしてその能力向上型であるAGM-88DおよびAGM-88E AARGM(先進対レーダー誘導ミサイル “アーガム”)の系譜に連なるミサイルであるが、それまでのHARM、AARGMとは異なり、先端から後端に至るなめらかなフォルムが特徴だ。

※HARM:High-speed Anti-Radiation Missile
※AARGM:Advanced Anti-Radiation Guided Missile

主翼下にAGM-88E AARGMを搭載した、アメリカ海軍EA-18Gグラウラー電子戦機。写真:アメリカ海軍

より速く、より強く、より遠くへ

 AARGM-ERでは、HARMおよびAARGMの胴体中央部にあった4枚の操縦翼が姿を消し、代わりに両側面にストレーキが設けられた。これにより、空力抵抗を減少させつつ揚力を生み出すとともに、より探知されづらくなっている。ミサイル後部の安定翼は形状が改められて操縦翼になり、空気抵抗の減少に加えて機動性の向上も図られた。さらに新型の固体ロケットモーターを採用したことで、従来よりも飛翔速度を向上させるとともに、射程も大幅に延伸した。AARGMの2倍、約300kmに及ぶとする記事もある。

 弾頭については、AARGMよりも威力が増した新型弾頭が搭載されている。これにより、防空システムへの攻撃に際して、レーダーだけではなくミサイル発射装置を含めたシステム構成品全般を破壊する能力を獲得している。

 一方で、シーカーや誘導装置、飛翔コントロール関連のシステムは基本的に既存のAARGM(AGM-88E2)と同一のものを使用している。具体的には、レーダーが発する電波を検知・分析するパッシブ・レーダー・シーカー、ミサイルを目標の座標まで導くGPS誘導装置、目標を捕捉するためのミリ波レーダー・シーカーだ。

 まとめると、AARGM-ERは、既存のAARGMと同じシーカーやシステムを採用しつつ、飛翔速度・飛翔距離・機動性・破壊力を大幅に向上させたミサイルということになる。

画像:ノースロップ・グラマン
アメリカ海軍のF/A-18FスーパーホーネットによるAARGM-ERの試射。AARGM-ERの試射は2023年5月までに計5回実施された。写真:アメリカ海軍

目標がレーダーを切っても、ミリ波レーダーで捕捉し、命中する

 AARGMと比較して性能を大幅に向上させたAARGM-ERであるが、実際の運用におけるメリットにはどのような点が考えられるだろうか。

 もっとも大きいのは、飛翔速度の向上だ。防衛主体の戦闘において対レーダーミサイルによる対処が求められるのは、艦艇や野戦防空システムといった “動く目標” である。艦艇は常に移動しているし、車載式あるいはけん引式の野戦防空システムは陣地転換する。その際、レーダーの放射を早い段階で止められてしまえば、位置の特定が難しくなる。対レーダーミサイルには、目標にいち早く到達するための飛翔速度が重要なのだ。

 また、昨今の防空システムの急速な能力向上を踏まえるならば、ミサイルの発射母機は敵の脅威圏から少しでも離れた位置で活動できることが望ましい。そこで、射程が大幅に増したAARGM-ERを使えば、従来よりも遠距離から安全に、防空艦艇や防空システムを制圧することができる。新型弾頭により威力も増しているから、レーダーの周りにある指揮・通信車両やミサイル発射装置、艦橋構造物などにもダメージを与えることができる。つまり、たとえ1発の着弾でも戦闘能力を喪失させることが期待できる。

 さらに、AARGM-ERの大きな特徴として、敵がレーダーの電波放射を止めても正確に破壊することができる。これには、先ほど触れたGPSとミリ波レーダーが関係している。まず敵がレーダーを切った場合、最後に電波放射が確認された地点までGPSにより誘導される。そして、飛翔の最終段階ではミリ波レーダーが起動し、目標を捕捉して撃破できるというわけだ。

 漫画の最後に、敵の艦艇がレーダーを止めた後にAARGM-ERが正確に命中したシーンが描かれているが、これはまさにこうした要素の組み合わせの賜物である。

コンテナと隊員1人で完結する地上発射型「AReS」

 もう一つ、今回のマンガでは地上からも対レーダーミサイルが発射されている。それがAReS(先進反応打撃 “アリーズ”)だ。AReSは、簡単に言えばAARGM-ERの地上発射型ということになる。AARGM-ERの尾部にブースターを取り付け、これをコンテナ型のランチャーから発射するシステムだ。

※AReS:Advanced Reactive Strike

 ミサイル自体はAARGM-ERと変わりないので、ここではその他の部分について触れていこう。まず、AReSにはコンテナ型ランチャーのほかに構成要素はない。つまり、独自の索敵手段を備えているわけではないということ。ただし、たとえばデータリンクなどを通じて味方部隊の戦闘ネットワークに加わることができる。また、ミサイルの発射にはタブレット端末を操作する人員が1名いるだけでよい。これはつまり、AReSは非常にコンパクトに運用できるシステムであるということだ。極論すれば、ヘリコプターを使って小さな島にランチャーと人員を輸送すれば、あっという間に運用態勢を確立できてしまう。

 さらに、AReSのランチャーは地上のみならず艦艇上でも運用できる。従って、ある程度の広さの甲板がある艦であれば、ランチャーを置いてAReSを運用することができるわけだ。

AARGM-ERは、発射されるとパッシブ・レーダー・シーカーでレーダー電波を検知・分析して目標を確定し、GPS誘導でその座標まで飛翔、ある程度近づくとミリ波レーダーで目標を改めて探知・捕捉して命中する。対レーダーミサイルは、レーダー電波の発信源に向かって飛ぶのが基本だが、仮に目標がレーダー発信を止めてしまっても、目標を見失わない。イラスト:おぐし篤

日本におけるAARGM-ERとAReSの可能性

 現在、防衛省・自衛隊では日本に侵攻してくる敵部隊を安全な距離から撃破する「スタンド・オフ防衛能力」の構築を進めている。また、敵のミサイル発射拠点等を無力化する「反撃能力」の整備も並行して行われている。いずれにとっても、遠距離からピンポイントで敵の艦艇や防空システムを無力化できるAARGM-ERおよびAReSは、有力な手段となりうる。

 重要なのは、AARGM-ERおよびAReSは、既存の自衛隊装備との統合が可能であるということ。たとえばAARGM-ERは、すでに航空自衛隊で運用されているF-35A戦闘機の兵器倉内に搭載が可能であり、今後運用されるF-35Bでは翼下に搭載が可能だ。また、国産のF-2戦闘機についても、AARGM-ERを搭載するための改修を実施すれば統合可能であるという。

 さらに、AReSについても陸上自衛隊のヘリコプターによる吊り下げ輸送で島嶼部に展開可能なほか、コンテナ型のミサイル発射装置として海上自衛隊の艦艇に搭載することも考えられる。

AReS(アリーズ)は、AARGM-ERにブースターを取り付け、可搬型コンテナに搭載した、コンパクトな地上発射型。画像:ノースロップ・グラマン
AARGM-ERの実大模型を使用した、F-35戦闘機のウエポンベイへの搭載試験。写真:ノースロップ・グラマン

(第3回に続く)

おぐし篤OGUSHI Atsushi

漫画家・イラストレーター、イカロス出版、宝島社、KKベストセラーズ、東京書籍等でイラスト、書籍デザインに携わる。イカロス出版にて、漫画『実録!TPC73期』『真伝!空自ファントム』『自衛隊感染予防BOOK』『IBCSマンガでわかるネットワーク戦闘』等作品多数。

稲葉義泰INABA Yoshihiro

軍事ライターとして自衛隊をはじめとする各国軍や防衛産業に携わる国内外企業を取材する傍ら、大学院において国際法を中心に防衛法制を研究。著者に『「戦争」は許されるのか 国際法で読み解く武力行使のルール』『“戦える”自衛隊へ 安全保障関連三文書で変化する自衛隊』(イカロス出版)などがある。

https://x.com/japanesepatrio6

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