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《ノースロップ・グラまんが》近未来防衛戦闘のリアル──第4回 極超音速兵器との戦い:GPI(滑空段階迎撃用誘導弾)

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2025-4-20 12:00

広大な海域に点在する島々を、最新鋭のアセットで護るイカロス防衛隊。ドローン攻撃への対処はなんとかなりそうだが、彼の国の攻勢がそれで止むわけではなかった。ノースロップ・グラマン社の提供でお届けします!おぐし篤 OGUSHI Atsushi

◎本記事は月刊『Jウイング』との連動企画です。

解説:GPI(滑空段階迎撃用誘導弾)

漫画では、彼の国が放った6 発の極超音速滑空兵器「HGV」を、迎撃ミサイル「GPI」によって見事に防いだイカロス防衛隊。解説では、日米が共同開発するこのGPI の必要性や、開発状況などについてみていこう。 ──稲葉義泰 INABA Yoshihiro

既存のシステムでは対処できない新たなる脅威「極超音速兵器」

 日本の空は、多層的な防空システムで防護されている。航空機や巡航ミサイルには戦闘機や各種の防空ミサイルなどが対処し、弾道ミサイルにはイージス艦の迎撃ミサイル「SM-3」および地対空ミサイルシステム「PAC-3」が対処する態勢が構築されている。ところが今後は、従来の防空システムでは対処が難しい、新たな脅威「極超音速兵器」への対応が必要になる。

 極超音速兵器は、大きく2種類に分けられる。ひとつは「極超音速滑空兵器」(HGV)で、発射後は弾道ミサイルと同様に上昇した後、切り離された弾頭が大気圏内の上層部をグライダーのように滑空飛翔し、目標を攻撃する。もうひとつは「極超音速巡航ミサイル」(HCM)で、こちらは「ラムジェットエンジン」や「スクラムジェットエンジン」といった特殊な構造のエンジンにより長距離をマッハ5以上の速度で巡航する。

極超音速兵器のうち、中国が開発した極超音速滑空兵器(HGV)の「DF-17」(東風17)。大型車両に搭載した移動式発射装置で、先端の尖った部分が滑空体。写真:颐园居
極超音速兵器のうち、極超音速巡航ミサイル(HCM)として、米国防高等研究計画局(DARPA)が試作した「HAWC」(Hypersonic Air-breathing Weapon Concept)のコンセプト画。画像:DARPA
防衛省の資料にある、極超音速兵器の飛翔イメージ。「推力飛しょう型」はHCM(極超音速巡航ミサイル)のことで、「滑空型」はHGV(極超音速滑空兵器)のこと。出典:防衛省

 極超音速兵器は、弾道ミサイルや巡航ミサイルなどへの対処を前提とした、これまでのミサイル防衛システムでは対処が困難とされている。ここでは、HGVを例に挙げてその理由を概観していこう。

探知も迎撃も難しいとされる HGV - 極超音速滑空弾

 既存のミサイル防衛では、迫りくるミサイルをレーダーにより遠方から探知し、飛翔経路を予測して迎撃ミサイルを発射し、これを迎撃するという仕組みになっている。弾道ミサイルは飛翔速度が速く(着弾時にはマッハ6~20程度)、弾頭の小ささもあって迎撃は簡単ではないが、一度発射されれば物理法則に則った楕円軌道を描いて飛翔するため、計算による着弾地点予測が可能だ。また、軌道の頂点付近では速度も遅くなる。

 なにより、飛翔高度が比較的高いため、遠方からレーダーで探知することが容易で、早期に迎撃態勢を整えることができる。こうした理由もあって、これまでの迎撃試験では、SM-3に代表される迎撃ミサイルによる迎撃は高い確率で成功してきた。

 ところが、HGVの場合は、これと条件が大きく異なる。HGVは、弾道ミサイルに比べて低い高度を滑空飛翔するため、地平線に隠れてしまい、遠方にある段階ではレーダーによる早期探知が難しい。

 また、飛翔高度の低さは、探知だけではなく迎撃にとっても厄介な要素となる。現在自衛隊が装備している弾道弾迎撃用ミサイルであるSM-3には「最低射高」、つまり「それより低い高度にある目標は迎撃できない」というラインがあり、それが約70kmといわれている。HGVはこれより低いか、高くても最低射高ギリギリの高度を飛翔するため、SM-3では対応が困難とされている。

 さらにHGVは飛翔途中に機動することができるため、飛翔経路の予測が難しい。 こうした要素が組み合わさった結果、HGVに対しては既存の迎撃システムによる対処が困難と考えられているのだ。

HGV対処の要となるGPI - 滑空段階迎撃用誘導弾

 そこでアメリカや日本では、HGV対処のために、探知と迎撃について新たな手段が導入されることとなった。

 まず探知に関しては、低い軌道を周回するセンサー搭載型小型衛星の群れ、いわゆる「衛星コンステレーション」により、早期にHGVの探知・追尾を実施する仕組みが構築されることとなっている。

衛星コンステレーションのイメージ図。多数の人工衛星を一体的に運用し、監視や測位の空白を減らす仕組みだ。資料出典:防衛省

 そして迎撃を担うことになるのが、今回マンガで登場した「HGV迎撃ミサイル」である。現在、ノースロップ・グラマンが開発しているプロジェクトでは「グライド・フェーズ・インターセプター」(滑空段階迎撃用誘導弾)の頭文字を取って、「GPI」と呼んでいる。

 GPIとは、その名の通りHGVを滑空段階(グライド・フェーズ)で迎撃するためのミサイルである。アメリカのミサイル防衛局(MDA)により2021年にプログラムがスタートし、コンペティションの結果、2024年にノースロップ・グラマン社が開発・製造を担当することが決まった。製造開始は2030年代中頃になる見込みである。

 また、2023年には日本もプログラムに参画することが決定し、SM-3ブロックⅡA以来の日米共同開発による迎撃ミサイルとなる。ちなみに、日本は「第2段ロケットモーター」「第2段の操舵装置」「キルヴィークルの推進装置および操舵装置」の開発を担当する。最終的に、日米で開発・製造した構成品はアメリカにおいて統合される。

※誘導弾の形態は画像作成時点での想定に基づきます。画像:Northrop Grumman

 ノースロップ・グラマン社によると、GPIは3段式のミサイルで、イージス艦からの運用が予定されている。まず、Mk72(第1段ブースター)により垂直発射装置(VLS)から射出後、第2段、第3段ブースターにより加速・上昇後、目標を破壊するキルヴィークルが切り離される。

 大気圏外で迎撃を行うSM-3とは異なり、GPIでは大気圏内においても目標を迎撃する能力が求められているため、キルヴィークルはロケットブースターによる姿勢制御のほか、操舵装置と推進装置による機動が可能となっている。

 なお、SM-3シリーズでは、キルヴィークルにより弾道ミサイルの弾頭部分を直撃破壊(ヒット・トゥ・キル)する方式が採用されてきたが、今回のGPIではどのような手法で目標を破壊するのかは明らかにされていない。

HGVは弾道ミサイルのように打ち上げられた後、滑空体(グライドビークル)が切り離される。滑空体は大気圏内を機動しながら長距離を滑空飛翔し(滑空段階)、目標に突入する(終末段階)。GPIは、滑空段階でこれを迎撃するもの。単純な楕円軌道を描いて落ちてくる弾道ミサイルに比べると、HGVは迎撃しにくいとされる。イラスト:おぐし篤

開発はデジタルエンジニアリング 中身はオープンアーキテクチャ

 また、ノースロップ・グラマン社によると、GPIでは開発スピードを向上させ、必要なコストを低減化させるべく、開発の初期段階からデジタルエンジニアリングが活用されているという。たとえば、デジタル空間上で一度GPIを作り上げ、そこで設計に関する問題点の洗い出しや部品の配置などを事細かく確認する「デジタルツイン」や、デザインから開発、製造、試験、納入、運用に至るまでの各過程におけるあらゆるデータ、および開発や設計の目的や意思決定への経緯などを1本の糸のように撚り合わせ結びつけていき、収集された膨大な情報にあらゆる階層の人々がアクセスできるようにする「デジタル・スレッド」などを用いていると考えられる。

 さらに、GPIはモジュール化およびオープンアーキテクチャ化されていることも大きな特徴の一つだ。これにより、目標を探知・捕捉するシーカーに関する技術革新が期待されているほか、システムを作動させるソフトウェアのアップデートを迅速に行うことができる。また、将来新たな脅威が登場した際にも、GPIをベースに新たな弾頭やシーカー、推進システムなどを素早く組み込むことで、迅速に対処能力を付与することができるというわけだ。

 こうした取り組みの成果として、GPIは非常に速いテンポで開発が進むとみられており、2029年には初期作戦能力(IOC)を獲得した状態での飛行試験を予定しており、完全作戦能力(FOC)の獲得は2032年を目指している。

おぐし篤OGUSHI Atsushi

漫画家・イラストレーター、イカロス出版、宝島社、KKベストセラーズ、東京書籍等でイラスト、書籍デザインに携わる。イカロス出版にて、漫画『実録!TPC73期』『真伝!空自ファントム』『自衛隊感染予防BOOK』『IBCSマンガでわかるネットワーク戦闘』等作品多数。

稲葉義泰INABA Yoshihiro

軍事ライターとして自衛隊をはじめとする各国軍や防衛産業に携わる国内外企業を取材する傍ら、大学院において国際法を中心に防衛法制を研究。著者に『「戦争」は許されるのか 国際法で読み解く武力行使のルール』『“戦える”自衛隊へ 安全保障関連三文書で変化する自衛隊』(イカロス出版)などがある。

https://x.com/japanesepatrio6

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