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《特集:令和7年の新編部隊》統合作戦司令部とは?① ~設立までの経緯~

  • 特集

2025-4-12 12:00

2025年春に新編された主な部隊をとりあげる特集です。軍事フォトジャーナリストの菊池雅之が、統合作戦司令部の第1回として、その機能と設立までの経緯を紹介します。菊池雅之 KIKUCHI Masayuki

自衛隊の運用を一元化する 新たな指揮中枢

 2025年3月24日、防衛省自衛隊は統合作戦司令部を新設した。これまでの自衛隊にはなかったまったく新しいセクションであり、自衛隊の戦い方を大きく変える重要な指揮中枢となる。
 統合作戦司令部は、トップに統合作戦司令官を置き、陸・海・空自衛隊を一元的に指揮監督する。司令官には「将」の階級を付けた幹部が就く。

初代統合作戦司令官となった南雲憲一郎(なぐも・けんいちろう)空将。肩章は4つ桜で、階級は幕僚長たる将と並ぶ。写真:編集部

独立した陸・海・空自衛隊をつないだ「統合幕僚会議」

 陸・海・空自衛隊には、司令部たる幕僚監部が存在する。それが、陸上幕僚監部、海上幕僚監部、航空幕僚監部であり、それぞれ「将」の階級を付けた幹部による「幕僚長」がトップとなる。この3つは、独立した運用が基本であり、横軸はない。
 しかしながら、任務によっては、2つ以上の組織が連携して行動する必要がある。例えば、陸自空挺(パラシュート)部隊が空自輸送機で目標地域上空まで展開する場合などは、まさに自動車の両輪のように、陸・空が一心同体になって行動せねば、作戦の成功はない。その他にも、海自輸送艦での陸自部隊の海上輸送、空自レーダーサイト等を陸自部隊が警備、などなど組織は違えど共に行動するケースはいくつもある。
 そうした3自衛隊が一緒に行動する際、運用効率化を図るために、自衛隊には1954年に発足した当初から「統合幕僚会議」という機関があった。
 統合幕僚会議は、統合幕僚会議議長と事務局員により構成される。統合幕僚会議議長は、陸・海・空の幕僚長を経験した「将」の階級の幹部がローテーションで当たるため、制服組のトップでもある。しかし、指揮はあくまで各幕僚長が執り、統合幕僚会議議長は、防衛庁長官を補佐するのが役目であった。

統合幕僚会議があった頃(2000年)の防衛庁・自衛隊の組織図 出典:平成12年度版 防衛白書

テロの時代に陸・海・空を統べる「統合幕僚監部」

 東西冷戦が終結し、大規模戦争が生起する可能性は低くなったもののテロやゲリラなどが暗躍する新しい戦いの時代へと突入した21世紀。新しい戦争に迅速に対処するためには、陸・海・空自衛隊の統合運用が必要不可欠となった。
 そこで2006年に統合幕僚監部が新設された。トップを務めるのは統合幕僚長であり、統合幕僚会議議長と同様に、陸・海・空幕僚長経験者が就くポストとなった。大きく変わったのは、平時も有事も統合幕僚長が指揮権を持つこと。この流れをスムーズにするため、防衛大臣の指揮命令は、統合幕僚監部を通じることになった。
 しかし、統合幕僚長が現場に赴き部隊を直接指揮するわけではなく、基本的に防衛省内で防衛大臣の補佐を行うとともに、作戦遂行に当たっては、陸・海・空自衛隊からなる統合任務部隊(JTF:Joint Task Force)を編成する。このJTFをまとめる司令官は、その都度、統合幕僚長により指名される。ちなみに東日本大震災の時は、東北方面総監が務めた。

2011年の東日本大震災では、災害派遣として初めてJTF(統合任務部隊)が編成された。写真は、仙台空港の復旧を行った米陸軍とJTFの調整会議の様子。写真:菊池雅之

有事の手前からシームレスに動ける「統合作戦司令部」

 こうして自衛隊の統合運用は進んでいったのだが、有事に至るまでのいわゆるグレーゾーンから部隊を動かし、任務を遂行するためには、運用レベルでの統合化が必要となった。さらに在日米軍との連携強化も図る必要がある。
 そこで、統合幕僚監部の下に統合作戦司令部を新設することになったのである。
 これにより、統合幕僚長は防衛大臣の補佐に徹し、統合作戦司令官が、防衛大臣直轄部隊である陸上総隊、自衛艦隊、航空総隊、その他部隊を指揮することができるようになったのである。

2025年3月24日以降の自衛隊の指揮系統。すべての部隊運用は、統合作戦司令官の一元指揮のもと行われる。図:防衛白書資料から編集部作成
2025年3月23日、岡山県岡山市と愛媛県今治市で山林火災が発生した。翌日から実施した災害派遣は、統合作戦司令部による最初の部隊運用となった。写真は今治のもの。写真:統合幕僚監部
統合作戦司令部により島嶼防衛は強化されていくと思われる。写真のようにPFI船舶を使った戦車の輸送など、複雑化した組織体系を一元化できるからだ。写真:菊池雅之
菊池雅之KIKUCHI Masayuki

軍事フォトジャーナリスト。講談社フライデー契約カメラマンを経てフリーに。陸海空自衛隊に加え、世界中の軍隊を取材。『かっこいいぞ!じえいたい』(イカロス出版)、『最新陸海空自衛隊2024』(コスミック出版)、『自衛隊だけが見本を救える』(潮書房光人新社)ほか、著書・共著多数。日本写真家協会JPS正会員。

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