《ニュース解説》新領域の令和7年度予算案──衛星コンステレーション構築、サイバー部隊を2万4000人に
- ニュース解説
2025-1-6 14:04
2025年最初の《ニュース解説》は、稲葉義泰氏による来年度(令和7年度)予算案のポイント解説です。来年度は、陸・海・空のすべてに影響する新領域──宇宙、サイバー、電磁波のそれぞれについて、その充実に大きく舵を切る年になる見込みです。
2024年12月27日、防衛省は令和7年度防衛予算案を公表した。
陸海空それぞれが重点事項に関する能力向上を目指しており、そういったなかで、新領域(宇宙・サイバー・電磁波)に関して各種の進展が見られたことは要注目だ。他国の動向を常時把握することを目指す衛星コンステレーションの構築や、サイバー能力の向上、さらに新型電子戦システム(陸自)の開発など、防衛省・自衛隊は将来の戦闘様相への対応を図る姿勢だ。
衛星コンステレーションの構築(2,832億円)
令和7年度予算において、最も力が入れられている項目の一つが、2832億円が盛り込まれた衛星コンステレーションの構築だ。直訳すれば「衛星の星座」となるこの衛星コンステレーションは、一定の軌道上に多数の小型人工衛星を配置するもの。こうすることで、観測エリアの上空にいつでも一つ以上の衛星がある状況を作り出し、それぞれに搭載されたセンサーを用いて他国の艦艇やミサイル発射装置などの動向を常に逐一把握しようというもの。
防衛省ではこれを、スタンド・オフ防衛能力(長射程ミサイルにより敵を遠距離から無力化する能力)において、目標となる艦艇や地上部隊などを探知、追尾するための「目」として機能させることを計画している。防衛省は、2026年度から衛星の製造および打ち上げを開始し、民間の衛星との相乗りも含めPFI方式(公共施設等の維持管理や運用などを民間企業の資金等により実施する契約手法)により徐々にコンステレーションの構築を進め、2027年度末には本格運用を開始するとのことだ。
各種新型衛星の開発および試作
今後、衛星の利活用が防衛能力の向上にとって必要不可欠となるため、防衛省では各種の新型衛星の開発および試作を行う方針だ。
そのひとつが、52億円の予算が計上された「戦術AI衛星実証機の試作」だ。これは、他の衛星が装備する合成開口レーダー(SAR)や光学・赤外線センサーにより収集されたデータなどをAIにより画像化処理するなどし、各種装備品との相互通信により情報をリアルタイムで提供するというもの。従来は、衛星のデータ処理は地上ステーションで実施されてきたが、これを宇宙空間で実施することにより、情報共有に関するタイムラグなどを少なくすることができる。
その他に「次世代防衛技術実証衛星の開発」にも97億円が計上されている。これは、衛星ミッション機器の高機能化に対応した熱制御技術など、次世代に必要な防衛技術の実証衛星の設計や長納期部品の調達等を実施するというもの。平たく言えば、次世代技術を用いた衛星の実証機を作ろうということだ。
サイバー領域における意思決定支援システムの整備(41億円)
防衛省では、サイバー空間における各種能力の整備にも力を入れており、令和4年度(2022年度)末にはわずか890人であった自衛隊のサイバー関連部隊の要員数を、令和9年度(2027年度)末には関連要員も含めて約2万4000人体制とすることを目指している。
令和7年度予算では、新たに「サイバー領域における意思決定支援システム」の整備に41億円が計上された。これは、サイバー攻撃等対処に係る状況把握・対処等をより迅速かつ的確に行うため、人工知能(AI)を活用した支援システムを整備するというもの。サイバー空間上で収集された膨大な情報を瞬時に分析・評価するため、AI技術を活用した意思決定支援システムにこれを集約し、「誰が、どこで、なにを、どうする」といった意思決定の迅速化を図ろうという試みだ。
ネットワーク電子戦システム(NEWS)(改)の開発(47億円)
陸上自衛隊では、敵のレーダーや通信装置が発する電波を傍受し、これを妨害するための電子戦を実施するための装備として、ネットワーク電子戦システム(NEWS)の配備を進めている。令和7年度予算では、このNEWSの能力を向上させた「NEWS(改)」の開発を実施することが盛り込まれた。
防衛省によると、NEWS(改)では電波探知距離および妨害可能距離を延伸させることを主眼に置いており、さらに将来的な能力向上ための拡張性の確保や、妨害を実施するために必要な敵の位置情報といったデータの算出時間を短縮することも目指すという。これにより、安全な距離から敵の電波情報を収集し、妨害を実施することが可能となる。
(以上)
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