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次世代レーダーSPY-6(V)を学ぶ──第3回 生産参画と日本防衛産業の広がり

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2024-11-22 17:00

第3回は、SPY-6(V)の製造参画とそれに関連した日本防衛産業の未来について掘り下げてみよう。今回はレイセオン日本社長の永井氏に加え、国際SPYレーダー担当アソシエイト・ディレクターであるジョン・トビン氏にもお話を伺った。井上孝司 INOUE Koji

SM-3を発射するミサイル巡洋艦「レイク・エリー」。ブロックⅡAからは大陸間弾道ミサイルに対処することが可能になった。写真:USN

米サプライチェーン参入のために必要なこと

 日本の企業がアメリカ企業のサプライチェーンに参入しようとすれば、法制度も商習慣も異なる国の企業同士で取引をするわけだから、契約の諸条件をまとめるだけでも簡単なことではない。
 日本の企業がアメリカの政府や企業と取引を始めるに際しては、まず、信頼と実績があるロー・ファーム(法律事務所)を見つけて契約業務に関わってもらう必要があろう。アメリカは何かというとロイヤーが出てくる国なのだ。
 さらに、米国防総省はメーカー各社に対して、装備品の研究開発・製造に際して、モデリングやシミュレーションをはじめとする、各種デジタル技術の活用を求めている。すると、米国メーカーと組んで参入しようとする海外企業にも、各種デジタル技術の導入・活用が求められる可能性が高い。納入先のメーカーとの間で、開発・製造しようとする製品に関する“共通言語”を持たなければならないからだ。
 モノが防衛装備品となると、秘密の保護、情報の保全という問題も出てくる。保護・保全のための仕組み作りはひとつのハードルになるし、それがアメリカの軍あるいはメーカー相手となれば、日本向けと同じやり方では済まない。米軍には米軍の秘密保全の考え方があるからだ。そういう面の支援も必要になる。
 おまけに、日本とアメリカのことだから言葉の壁もある。単に、ある日本語を、対応する英語に置き換えれば話が通じる、という話ではない。
 先に出てきたロイヤーという仕事が典型例だ。日本では弁護士と訳されることが多いが、アメリカでは契約をはじめとする各種の法律行為に関わる専門職であり、日本の弁護士よりも仕事の幅が広い。
 そういう調子だから、往々にして、言葉を置き換えるだけでは意図したことが上手く伝わらないものである。そういう壁を乗り越えるには、相応の時間がかかる。
 すると、日本側では積極的に手を挙げるとともに、「うちではこういう仕事ができます」とアピールする努力や、アメリカ側との相互理解を深める努力が求められる。黙っていても察してください、は通用しない。一方のアメリカ側には、日本側の意欲を無駄にしないで成果につなげるための、さまざまな支援や情報提供が求められよう。

海外向け防衛装備品の製造は可能か?

 我が国では、採算性の問題などから防衛分野から手を引くメーカーが相次いで、問題になっている。ところがこれは日本だけの話ではないそうだ。「アメリカでもやはり、防衛装備品を手掛けていたメーカーが、手を引く事例はたくさんあります」と永井氏は説明する。
 実際、米国防総省の契約情報を見ていると、“diminishing manufacturing sources”、つまり生産・供給源の途絶に対処する案件が頻出している。これはどういうことかというと、何かのウエポン・システムを構成するコンポーネントについて、納入元が手を引いてしまって入手不可能になった場合(つまり供給源の途絶)に、代わりの供給源を見つけて確保する、代わりとなる製品を開発・導入する、といった作業を指す。
 そういう事情があるなら、アメリカのメーカーが手を引いた後釜として、同種の製品を手掛ける能力を備えた日本のメーカーが参入することはできないものだろうか?
 ただし現実問題としては、何でも日本のメーカーが参入できるとは限らない。たとえばの話、AN/SPY-6(V)の中核となる窒化ガリウム(GaN)のパワー半導体素子を日本で製造しようとすれば、マサチューセッツ州アンドーバーにあるのと同じレベルの施設を新たに立ち上げなければならず、それは相当に多額の投資を必要とする話となる。
 しかも、アメリカ政府が技術移転や情報開示を承諾しなければ、GaNパワー半導体の国外製造は実現できない。メーカーの一存ではどうにもならず、政府同士で解決しなければならない話も出てくるのが防衛装備品の分野である。
 幸い、日米両国政府の間では、極東の安全保障情勢をめぐる危機感が共有されてきているから、それをベースにして歩み寄り、最善の結果につなげる努力や工夫が必要になるだろう。
 そういった事情もあるので、いきなり大風呂敷を広げるのは好ましいことではない。いきなりホームランを狙うよりも、まずはゴロでも単打でもいいから塁に出なければならない。「できるところから一歩ずつ」である。

レイセオンのアンドーバー事業所の様子。広大な敷地の中に、半導体からレーダーアレイの組み立てまで自社で完結する製造ラインが築かれている。写真:RTX

発注と受注のコミットメント

 日本のメーカーが海外メーカーのサプライチェーンに割って入ろうとすれば、新たな案件のために設備投資をしたり、人を増やしたりしなければならない可能性が高い。三菱電機や三波工業の場合には、すでにある事業基盤を活用する形でAN/SPY-6(V)の製造に参画できるとのことだが、場合によっては新規投資も必要になるだろう。
 しかしそれができるのは、長期的に事業を継続できる見通しがあればこそ。「今年はこれだけ買いますけれど、来年はどうなるか分かりません、では困りますよね」と永井氏はいう。
 ことに単年度会計で動いている日本の政府機関向けでは、このことが無視できない問題になっている。今年度には売り上げが立ったけれども、先の見通しが立ちません……これでは、将来を見込んで多額の設備投資に踏み切ろうとする経営者はいない。
 すると、調達する官側(米軍や自衛隊)には「これから何年間でどれだけの調達を行います」とのコミットメントが求められる。そして受注する側にも、「そういうことなら、うちはそれに対応するための投資をします」というコミットメントが求められる。この両者がうまく噛み合って初めて、生産基盤の強化を実現するための道をつけることになる。
 つまり、「発注する側のコミットメント」と「受注する側のコミットメント」が噛み合わなければならない。そうなるとメーカーだけでどうにかなる種類の話ではなく、官側の理解やしかるべき対応、そして政治の関与が欠かせない。

井上孝司INOUE Koji

1966年7月生まれ、静岡県出身。1999年にマイクロソフト株式会社(当時)を退社してフリーライターに。現在は航空・鉄道・軍事関連の執筆を手掛けるが、当初はIT系の著述を行っていた関係でメカ・システム関連に強い。『戦うコンピュータ(V)3』『現代ミリタリーのゲームチェンジャー』(潮書房光人新社)、『F-35とステルス』『作戦指揮とAI』『軍用レーダー』(イカロス出版、わかりやすい防衛テクノロジー・シリーズ)など、著書・共著多数。『Jウイング』『新幹線エクスプローラ』『軍事研究』など定期誌や「マイナビニュース」「トラベルウォッチ」などのWEBメディアにも寄稿多数。

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