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次世代レーダーSPY-6(V)を学ぶ──第3回 生産参画と日本防衛産業の広がり

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2024-11-22 17:00

第3回は、SPY-6(V)の製造参画とそれに関連した日本防衛産業の未来について掘り下げてみよう。今回はレイセオン日本社長の永井氏に加え、国際SPYレーダー担当アソシエイト・ディレクターであるジョン・トビン氏にもお話を伺った。井上孝司 INOUE Koji

SPY-6(V)1を搭載するアーレイ・バーク級駆逐艦フライトⅢの「ジャック H. ルーカス」。同様の駆逐艦は続々と建造される予定だ。写真:USN

生産参画以外の関わり

 防衛装備品に限った話ではないが、工業製品は「買ったらそれで終わり」ではない。導入後の維持管理が適切に行われなければ、多額の税金を投じて調達した装備は使い物にならなくなる。そして、維持管理の業務は装備が用途廃止になるまで続き、そこで要する経費は最初の調達費用よりもはるかに多い。それなら、維持管理業務に参画する形も考えられるわけである。たとえば、日本に「AN/SPY-6ファミリーのリージョナル・デポ(整備拠点)」を置いて、日米両国の艦艇で使用するレーダーのメンテナンスや部品供給を適切に実現する仕組みにつなげられるかも知れない。日本にデポを置けば、交換用の部品、分かりやすいところだとRMA(Radar Modular Assembly)やTRIMM(Transmit/Receive Integrated Multichannel Module)といった主要コンポーネントを迅速に艦まで届けて、レーダーの可動率を高められるのではないか。
 また、そのリージョナル・デポにストックする製品あるいは部品の生産に日本のメーカーが参画できれば、アメリカで作って運んでくるよりも早くモノを揃えられる可能性が出てくる。
 じつは、もっと間接的な形の関与がすでに実現している。筆者が2023年5月にマサチューセッツ州アンドーバーの工場を訪れて、AN/SPY-6(V)の製造現場を見せていただいたときに、回路基板の製造に使用する機器、あるいは金属部品の加工に用いる工作機械などで、日本メーカーの製品が使われている場面を目の当たりにした。
 つまり、すでにAN/SPY-6(V)の製造に日本企業は関わりを持っているのである。回路基板の製造機器でも工作機械でも、それ自体はさまざまな用途に使用できる汎用品。それがたまたま(?)、RTXが求める要件を満たしたことで、AN/SPY-6(V)の製造でも役立っている。こういう形の関与も存在するのである。

2024年10月16~19日にかけて行われた国際航空宇宙展でのRTXブースの様子。SPY-6(V)の展示を含め、様々なプロダクトが紹介されていた。写真:Jシップス編集部

防衛産業での共存共栄のために

 単に米国メーカーの製品を日本に買ってもらうだけでなく、その中で日本における防衛産業基盤維持との両立を追求する。こうした取り組みを実際に目の当たりにすることは、逆に、日本がこれから価値観を同じくする国に対して防衛装備品の移転を追求していく過程でも、参考になるのではないか。置かれた立場が逆になるが、事情は似ているからだ。
 自国が何かを調達するときに産業基盤の維持を掲げるのであれば、自国から他国に何かを輸出する場面でも、相手国の産業基盤の維持を尊重しなければならない。

RTXブースに展示されていたSPY-6(V)1および4のアレイの模型。バックフィット用の(V)4は(V)1とは形状が異なることが分かる。写真:Jシップス編集部
会場のエスカレーター付近の床には、実物大のSPY-6(V)1アレイをプリントした広告が貼られていた。写真:Jシップス編集部

おわりに

 欧米で開発されたウエポン・システムの多くに共通する特徴として、「部分最適よりも全体最適」「さまざまなニーズに対応できる柔軟性」が挙げられる。「同じコンポーネントを利用して大きなレーダーも小さいレーダーも作れる」「ソフトウェアの改良によって能力向上を図る」といったAN/SPY-6(V)の特徴は、その具体的な現れといえる。
 そして近年の状況から、サプライチェーンの強靱化が急務になっているが、国ごとに単独で取り組むには障壁が高い。多国籍での協力は不可欠だが、そういう観点からすると、日本のメーカーがAN/SPY-6(V)のサプライチェーンに参入したのは大きな出来事だ。自国向けの製品を自国で製造するだけで、産業基盤を維持できるわけではない。
 3回の連載を通じて、AN/SPY-6(V)について知るだけでなく、その背後にある状況や考え方についても知っていただければ幸いだ。

レイセオン国際SPYレーダー担当アソシエイト・ディレクター ジョン・トビン(John Tobin)

1978年 2月生
2008年 ミサイル駆逐艦「ラッセル」(DDG59)副艦長
2010年 第6艦隊司令官補佐官(イタリア・ナポリ)
2015年 ミサイル駆逐艦「ポーター」(DDG78)副艦長
2017年 ミサイル駆逐艦「ポーター」(DDG78)艦長
2019年 海軍作戦本部N96水上戦担当
2021年 米国海軍兵学校航海術・航法学科長
2023年 レイセオン入社

レイセオン日本社長 永井澄生(ながい すみお)

1961(昭和36)年 1月生
1983(昭和58)年 3月 防衛大学校卒業(27期)
同年 4月 海上自衛隊入隊
1987(昭和62)年 2月 護衛艦「よしの」応急長
1989(平成元)年 3月 海洋観測艦「あかし」航海長
1990(平成2)年 3月 防衛大学校訓練教官
1994(平成6)年 6月 アメリカ海軍士官学校教官
1996(平成8 )年 8月 護衛艦「ゆうぎり」砲雷長
2000(平成12)年 9月 護衛艦「おおよど」艦長
2002(平成14)年 4月 在インドネシア日本国大使館防衛駐在官
2010(平成22)年 8月 第15護衛隊司令
2011(平成23)年 12月 対潜資料隊司令
2014(平成26)年 12月 海洋業務群司令
2015(平成27)年 12月 海洋業務・対潜支援群司令
2018(平成30)年 3月 海上自衛隊退役
同年 8月 レイセオン入社 レイセオンインターナショナルインク配属
2019(令和元)年 12月 レイセオンミサイル&ディフェンス配属
2023(令和5)年 12月 レイセオン日本社長代理
2024(令和6)年 5月 レイセオン日本社長

提供/RTX

井上孝司INOUE Koji

1966年7月生まれ、静岡県出身。1999年にマイクロソフト株式会社(当時)を退社してフリーライターに。現在は航空・鉄道・軍事関連の執筆を手掛けるが、当初はIT系の著述を行っていた関係でメカ・システム関連に強い。『戦うコンピュータ(V)3』『現代ミリタリーのゲームチェンジャー』(潮書房光人新社)、『F-35とステルス』『作戦指揮とAI』『軍用レーダー』(イカロス出版、わかりやすい防衛テクノロジー・シリーズ)など、著書・共著多数。『Jウイング』『新幹線エクスプローラ』『軍事研究』など定期誌や「マイナビニュース」「トラベルウォッチ」などのWEBメディアにも寄稿多数。

Jシップス編集部J Ships magazine

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