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《「こんごう」乗艦レポート》
リムパック2026 #7 毎日実戦! 厨房の戦い

  • 特集

2026-9-16 13:55

アメリカ海軍が主催する、ハワイ周辺海域での多国間海上演習「リムパック」。今回のレポート現場は、護衛艦「こんごう」の艦内の一画。そこは予行・訓練・演習なし、常に「実戦」の現場であった。柿谷哲也 KAKITANI Tetsuya

日々繰り広げられる「実戦」

 多国間演習リムパック2026に参加中の護衛艦「こんごう」。作戦中枢である戦闘指揮所(CIC)のさらに向こうに、もう一つの「戦闘指揮所」がある。乗員約300名分の食事を作る厨房だ。「こんごう」のこの航海は訓練と演習だが、ここ厨房では予行も訓練も演習もない。常に「実戦」の場だ。
 早速入ってみよう。入り口には今日のメニューに使う食材だろうか、玉ねぎやパイナップルの段ボールが重なり、すでに「戦場」の様相。厨房に入ると軽快なテンポのJ-Popsが聞こえてきた。アニメ『ギルティクラウン』のオープニングテーマ、EGOISTの「The Everlasting Guilty Crown」だ。大型回転釜の湯気の向こうに見えてきた大きなまな板でパイナップルを切っている小宮(こみや)3曹がEGOISTを選曲していた。包丁が叩く音はまるで楽器のようにBGMに合っている(筆者主観だが)。

パールハーバー基地で調達したパイナップルをカットする小宮3曹。力技だけではない。秤を使わずにグラムを揃える感覚も一つの術科だ。いつか、その「術科」を教える舞鶴基地第4術科学校の教官に話を聞いてみたい 写真:柿谷哲也

 艦首側側面の4連大型回転釜は一つを予備として3つが使われていた。一つは白米。鍋で米を炊くのだ。一般的な店の厨房で使うような大きい炊飯器はここにはない。回転釜で米を炊く理由は垂直発射装置Mk.41 VLSと同じだ。異なるミサイルを同じセルに装填するのと同じように、大型回転釜で炊飯、煮物、汁物、炒めまで異なる調理法で多目的任務に使う。
 特に炊飯は、炊飯器と同じような「吸水炊飯法」もできるが、米粒が立ちやすく、粘りを調整しやすいなどの利点がある「湯とり法」「湯炊」などと呼ばれる高度な技術の炊飯法を使う。右舷側の回転釜にはすでに豚肉や玉ねぎが入っていた。その隣は合挽肉だ。
 厨房の調理台はコールドテーブルのトップ面をあえて調理台として使用せず、さらにコールドテーブルを覆うような構造の調理台になっており、艦の動揺でも食材が落下しないように縁が付いている軍艦仕様となっていてカッコイイ。その上には、我々国民にもなじみ深いエスビー食品のディナーカレーフレーク、家庭用カレー史上最大手のハウス食品デミグラスソース、そして関西の調理人で知らぬ者はいないジーエスフードのフルーツチャツネなどが整然と並び“出撃”の時を待っている。
 回転釜の豚肉と玉ねぎ、調理台のカレーフレーク、つまり今日はカレーだ。それに気づくまで筆者は今日が金曜日ということを忘れていた。「こんごう」乗員は毎日3交代制で充分な休息をとるが、航海中に丸々1日休暇というのはない。そのため曜日感覚がなくなるので金曜日はカレーにして1週間の経過を知るという仕組みになっている(ようだ)。
 ポークカレーを担当するのは給養員で調理作業長の保坂(ほさか)3曹。次々に投入するカレーフレーク。慎重に味見をしながら、デミグラスソースの投入タイミングを計っている。保坂3曹によると、デミグラスソースを加える理由は、味の深みとコクを増すためとのことだが、わずかな量で味が大きく変わり、またカレーの香りをなくすことになりかねないので加減が重要とのこと。投入後の味の変化を見越して、配食の時間から逆算して投入する必要があるという。

カレーフレークを大型回転釜に投入する保坂3曹。食材は入札で決まった業務用。これをいかに街のカレー屋より上手く作るか。そのうまさを一番よく知っているのは乗員らだ。基地に戻ったら街のカレーを食べないという乗員も多い 写真:柿谷哲也

 その隣の回転釜では厨房の指揮官である給養員長の内田(うちだ)曹長が合挽肉を炒め、肉汁がいい香りを出している。内田曹長はカレー粉とコンソメを投入した。厨房は一瞬にして、ここはインド艦の艦内かと錯覚するほどの香りが充満した。
 この日の「こんごう」は、まるで対空戦で艦対空ミサイルSM-2と速射砲を撃つように、ポークカレーとキーマカレーの2段階攻撃だった。

キーマカレーとポークカレーの2種、そしてハワイで搭載したパイナップルが食欲をそそる 写真:柿谷哲也

ベテランが使いこなす「こんごう」の厨房

 厨房の指揮官である内田曹長のお名前は一文字「香」で「かおり」と読ませる。生まれながら香辛料を扱う「職人」としての使命を背負っているようだ。
 農業高校食品科から大学の栄養学科を経て海上自衛隊に入隊した。護衛艦「はるな」「せとゆき」「こんごう」「さわぎり」「まきなみ」「おおよど」、国境の最前線である下対馬警備所、「ゆうだち」、「ありあけ」、そして「あさひ」は艤装から、「あけぼの」を経て乗員のふるさと佐世保教育隊へと渡り歩き、今は2度目の「こんごう」配属となっている。艦船愛好家でもある筆者としてはうらやましい経歴だ。

「こんごう」給養員長内田香曹長。10隻の護衛艦と2か所の陸上基地、そして2度目の「こんごう」。この経歴、他の科員でもそうそうはいない。献立は給養員が決めるが、たまに自分のこだわりを組み込む 写真:柿谷哲也

 最新のミサイルを搭載する「こんごう」。厨房の装備も高い能力なのだろうか。より小型な護衛艦であるDEの「おおよど」と比べて使い勝手もよさそうだが。
「就役34年目の『こんごう』なので、オーブンは旧式で『おおよど』と同じです。肉を焼くのも難しく、相当な技術が必要になります。熱がこもりやすく通風も考慮が必要です。最近の護衛艦に比べると、『こんごう』での調理作業は難しいですね」と話す。さらにパールハーバーでの食材調達は肉が安い一方で魚が高く、似たような肉料理が続かないように気を使っているという。
「日本とちがって、野菜の硬さを含めて品質が異なるので、早く使えるものは使って、もちそうなのは大事に使う。やはり、日本の食材は質がいいです」
──ところで、ご自宅でも料理はしますか?
「自宅でも作ります。護衛艦の乗員は濃い味が好みの一方、うちの家族は薄味が好みなので、そこでも腕を試せます」
 とことん、味を追求した料理人、いや芸術家の域である。
 夕食時間が終わり、すっかり誰もいなくなった科員食堂。パイナップルや野菜が入っていた大量の段ボールを給養員らが手で細かく千切っている。「皆さん何をやってるんですか?」と聞くと、「パールハーバー基地のルールで、千切って岸壁で回収するルールがあるんです」
「艦内放送で流したら、みんな来てすぐに終わるのでは」と筆者。
「いや、みんな連日厳しい訓練が続いているので」
 護衛艦「こんごう」4分隊給養員は、優しい心を持つ “戦士” たちであった。

乗員が夕食を終え、厨房の片づけが終わると、ようやく自分らの食事時となり、その後はミーティング。明日の仕込みの確認、食材の鮮度情報を共有する。そうして、仲間と戦った長い一日が終わる 写真:柿谷哲也

(つづく)

「こんごう」乗艦レポート リムパック2026 〜 タイトル一覧 〜

 #1 パールハーバー出港
 #2 迎撃ミサイルSM-2発射
 #3 撃沈訓練SINKEX
 #4 艦上体育と医療搬送体制
 #5 ハープーン対艦ミサイル発射
 #6 緊迫の対潜戦訓練
 #7 毎日が実戦! 厨房の戦い

柿谷哲也KAKITANI Tetsuya

フリーランス・フォトジャーナリスト。1966年生まれ。航空機使用事業を経て、自衛隊や外国軍を取材し内外に記事と写真を発表する。外国軍の取材は公式・非公式合わせて74か国。著書多数。

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