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《「こんごう」乗艦レポート》
リムパック2026 #9 対空戦訓練 ADEX

  • 特集

2026-10-2 06:15

「こんごう」はイージス・システムを搭載した防空艦であり、対空戦は最も得意とするところだ。対空戦訓練では、実際に“敵機”が襲いかかってくる柿谷哲也 KAKITANI Tetsuya

多数の航空機が襲い来る対空戦

「敵航空機をレーダー探知、近態勢」
 艦内放送がかかった。
 環太平洋合同演習リムパック2026に参加する海上自衛隊護衛艦「こんごう」(DDG 173)、オアフ島の南海域にある演習海域で対空戦訓練(ADEX:Air Defense Exercise)に参加している。敵の対艦ミサイルや敵航空機を模した航空機が「こんごう」に接近し、想定でSM-2対空ミサイルや、127mm砲、CIWS(近接防空システム)、ECM(電子妨害)などの防御兵器を使用するというのがこの訓練だ。
 艦内放送がかかったので、筆者は接近する航空機を撮影するため望遠レンズを持って艦橋ウイングに出ようとした。「今、SPY-1が出ているので、外には出られません」。航海員が声を掛けた。そう。「こんごう」は高度な防空艦。SPY-1レーダーで周囲数百kmの対空目標を探知できる。航海艦橋の真下にあるSPY-1レーダーには内部に4,096個の放射素子が内蔵されていて、強力なマイクロ波電波が上空に照射され続けている。家庭の電子レンジと同じでマイクロ波は人体に影響があるのだ。接近する航空機の撮影は艦橋の分厚い強化ガラスの窓越しに撮ることにした。
 接近してきたのはホーカー・ハンターMk.58戦闘機だ。戦闘機といっても1960年代の旧式機。アメリカの民間軍事会社ATAC社が中古機を導入して、対艦攻撃のサービスを行っているのだ。亜音速の旧式機とはいえ、翼にはECMポッドが備わり、電波妨害しながら飛来する。おそらく艦内CICではあちこちで号令が飛び交い、緊迫した状況なのだろう。

RAIDEXではATAC社のハンターMk.58A(N324AXとN327AX)2機がMCBH基地から飛来。写真は「こんごう」の真横に突っ込む際に艦橋右舷の窓から撮影。右主翼の下にALQ-167ポッドを携行している 写真:柿谷哲也
カネオヘ基地に着陸するフライト・インターナショナル・アビエーション社のリアジェット36A(N16FN)。この機体もECMポッドを付けて「こんごう」を襲撃してきた 写真:柿谷哲也

 その日の夜のADEXでは、艦橋にいた航海員が「アフターバーナーが見えました」というので、米空母「セオドア・ルーズベルト」搭載の戦闘機F-35CかF/A-18E/Fが “RED AIR” 役として攻撃を仕掛けてきたのだろう。

リムパック2026演習中に空母セオドア・ルーズベルトから発艦するVFA-211のF/A-18E。訓練中は時折、敵役となって「こんごう」に襲いかかってきた 写真:U.S.Navy

 ADEXの中でも実戦的な訓練は、多数の航空脅威による飽和攻撃を想定した襲撃訓練(RAIDEX:Raid Exercise)。短時間で目標を識別し、優先度を付け、迎撃判断する。リムパックでは段階的戦力統合訓練フェーズでRAIDEXの訓練機会が繰り返しあった。
「こんごう」、はカナダ海軍フリゲート「オタワ」、イタリア海軍哨戒艦「ジョバンニ・デレ・バンデ・ネッレ」が所属するグループで行動するが、グループの中でも「こんごう」はハイバリューユニットであるため、敵側は「こんごう」に対して優先的に攻撃を仕掛ける。これに対して各艦は対空目標に対して防御を行いながら「こんごう」側も対空戦を行うという内容。この日のRAIDEXもATAC社のハンターMk.58が使用された。
 迎撃の手順を確認するのが訓練の目的なので、“RED AIR”は複数機が1万フィート(約3,000m)前後でレーダーに映るように接近し、針路を常に変化させるような強度なストレスをかけながら、突如一気に500フィート(約150m)くらいまで高度を下げ、対艦ミサイルのように艦の舷側に向かって低空で突っ込んでくる。これを各艦に向けて何度も繰り返すといった内容。艦橋の窓から見ていると、2機でタイミングをずらして突っ込んできたハンターMk.58は各機で異なるECMポッドを付けていたので、異なる種類の電波妨害を掛けながら攻撃したことが想像できる。

ベテランの見せる自信と余裕

 この訓練の間、CICではどのような状況だったのだろうか。CICで武器システムを所掌し統括する砲術長の中田(なかだ)1尉に聞いてみた。
「どのような航空機が接近しているのかは画面上で確認します。データや数字、どんな電波を出しているのか、どこからやってきたのか、どのような態勢なのかが判断材料です。本来、味方機であれば、 敵対的な接近の仕方はしません。ちゃんと通信系を確立して入ってくるわけですね。それがなされてないということは、やっぱりおかしいなと判断します。この日の訓練では、SM-2で対処して、近距離になった場合はファランクスで対処を想定していました」

リムパック2026における「こんごう」のCICの様子。一般にはまず目にすることのできない区画だ 写真:海上自衛隊

 中田1尉は、今回のリムパックで実際にSM-2も発射している。それもパールハーバー出港翌日の射撃だった。RAIDEXのような想定の射撃と違い、本物のミサイルを実際に撃つのは相当に緊張するはずだ。
「今回の射撃は初めてミサイル長の立場で射撃しました。かといって、これまでミサイル関係員として30年以上やってきましたから、今まで訓練してきたとおりの手順で、整備された機械が正確に動けば、理論的に絶対成功しますし、全く緊張はなかったですね」
 さすが、すべてを知り尽くしているから余裕があるのだろうか。
「いやいや、自分は定年まで5年を切っていますが、もう30年もこの世界でやってきたのに、まだ勉強しなきゃいけないことがたくさんあります」
 後輩たちはきっと先輩のそういうところを見ていることだろう。
「そうですね。言葉で聞いても何年かしたら記憶に残ってないことも多いですよね。でも目で見てきたものはイメージで覚えている。若い子に『じじいに負けてらんねえ』っていつまでも思ってもらうのも、まあ我々の仕事かなと」
 やはり、こういう言葉は自分に自信と余裕がないと出てこない。

柿谷哲也KAKITANI Tetsuya

フリーランス・フォトジャーナリスト。1966年生まれ。航空機使用事業を経て、自衛隊や外国軍を取材し内外に記事と写真を発表する。外国軍の取材は公式・非公式合わせて74か国。著書多数。

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