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《「こんごう」乗艦レポート》
リムパック2026 #11 イージス艦から見る星々と人工衛星の恩恵

  • 特集

2026-10-2 06:17

GPSや最新の航海機器を装備する「こんごう」だが、航海の基礎はやはり天測。空を見上げれば人工衛星の輝きも見える。今やその人工衛星を通じて艦内からネットに繋がることも可能になった柿谷哲也 KAKITANI Tetsuya

イージス艦のウイングで星を見る

 環太平洋合同演習リムパック2026に参加中の護衛艦「こんごう」(DDG173)はこの日、午前に対潜戦訓練、午後に対空戦訓練をこなす忙しい日であった。速力を落とした「こんごう」は微速でゆっくり進む。海面は静かで、時折積雲に入る陽が西に傾いて、間もなく水平線に届く。

「こんごう」の左舷ウイングでワッチ。訓練を終えた静かな海域だが、浮遊物、海洋生物は目視で注意する必要がある 写真:柿谷哲也
艦橋操舵席の松永海曹長。「かつて3目標同時対処でSM-2を3発撃った時にも私は見張り員だったので、3方向違う方に飛んでいくミサイルが見えました。1発は撃墜する瞬間も見えました。」と見張り員の魅力を語る 写真:柿谷哲也

 艦橋のウイングで航海科の松永(まつなが)海曹長が「今日はグリーンフラッシュは無理かな」と呟く。グリーンフラッシュは日の出や日没時に水平線の大気がプリズムになって、太陽が1~2秒緑色に見える現象。
「見張りの時にこれまで6回、グリーンフラッシュを見ましたよ。艦内では3直制なので日没の時間帯にワッチ(見張り)に立ったときです。彩雲もよく見ます。今日のように積雲に雨が降っている時に太陽を背にすると虹が見えますが、同じようにスジ雲が層になっている巻層雲や巻積雲で雲の水滴が太陽光で光るんですよ。彩雲は日本の周辺でもよく表れます」
 普通の生活ではグリーンフラッシュなど人生に一回見られるかどうか。筆者は彩雲さえ見たことはない。ワッチは艦の周囲を常に目視(と双眼鏡)で海面と空を見ることが仕事。しかし、訓練を終えた静かな時間帯のワッチはなにかロマンチックでもある。
「そうだ、今夜は天測訓練もありますから、ぜひ見てください」と松永曹長のお誘い。
 天測訓練? 天測とは、太陽や星などの天体を観測して自艦の位置を知る方法で、六分儀で水平線と星の角度を測り、正しい位置を求める道具。電波航法がまだ十分でない時代の重要な航法であり、日本海軍では海軍兵学校航海術と天文航法が正式な教育科目として天測訓練が重視されていた。この訓練が海上自衛隊でも教育の中で残っているとは、全く知らなかった。
 日が落ち、満天の星空の艦橋ウイングに、福井(ふくい)2曹が六分儀の重厚な箱を持ってやってきた。蓋を開くと、箱に収められた六分儀は黒色で重厚感もありカッコいい。イミテーションで真鍮色をした装飾品が土産物屋などで売っているが、あれがいかに安っぽいか納得した。

六分儀を使用して天測を行う航海科の福井2曹。最新のイージス武器システムを搭載する「こんごう」でも、航海員は昔ながらの航海術の基本を忘れない 写真:柿谷哲也

 今夜は月明かりもあるが、それでも暗いので、福井2曹がどのように六分儀を操作しているのかよく分からない。作業を終えたので質問してみた。六分儀の難しさはなんですか?
「星を降ろす角度が、少しでも違うと、時間の位置に誤差が出てしまいます。そこが難しいところです」
──まったく理解できなかった。このハワイ海域は、先人たちがハワイ航路を開拓したころに使っていた天測航法。その話題になった時、福井2曹は呟く。「なんか時空を旅する感じがしますね」。海上自衛官はどこまでもロマンチックだ。
「これだけ星が出ていると。人工衛星とかスターリンクもよく見えますよ。」と松永海曹長。お、時空が現代に戻ってきた。

艦内からネットに繋がれるスターリンク

 スターリンクは米国の宇宙企業 SpaceX 社が運営する衛星インターネットサービス。上空の低軌道上に配置された多数の人工衛星を使い、全世界で高速インターネット接続するこのサービスにより、今やNATO諸国を中心に艦内の福利厚生の一環として、乗員が個人の休憩時間にインターネットに繋がれるようになってきた。海上自衛隊でも練習艦隊をはじめ、海外派遣の艦艇に搭載が始まっている。今回、派米訓練に参加する「こんごう」にも搭載されている。
 筆者も、「こんごう」乗艦に際しスターリンクの使用を許可され、私物のスマートフォンとスターリンクを繋げるために専用アプリを通信科の宮下海士長にセットアップしてもらった。艦側のシステムにも登録してもらうと、通信量は限定的ながら、艦内にいるのにもかかわらずスマホがインターネットに繋がった。普段使っているインターネットだが、艦内で使うとなにか新しい時代の幕開けのように感じた。
 宮下海士長は、「通信量に注意する必要はありますが、上陸した後でどこに行こうかとか、入港前に調べたりできるのはいいですね。でも、動画やアニメは通信量が多いので注意してください。乗員はみな動画やアニメは出港前にダウンロードしてから乗り込みます」

「こんごう」に派遣された写真員の要2曹のスマートフォンをセットアップする通信員の宮下海士長。スターリンクは通信科の担当だ 写真:柿谷哲也

 そういえばソーナー担当水側の坂本(さかもと)士長も、「推しの最新情報を艦内で調べることができるようになってよかったけど、動画は見ないようにして、事前にダウンロードしておくんです」と言っていたことを思い出した。
 乗員は「こっちはきれいな月夜だよ」といった、ロマンチックな言葉を艦内からネットを通じて恋人に送れる時代が到来したのだ。

「こんごう」乗艦レポート リムパック2026 〜 タイトル一覧 〜

 #1 パールハーバー出港
 #2 迎撃ミサイルSM-2発射
 #3 撃沈訓練 SINKEX
 #4 艦上体育と医療搬送体制
 #5 ハープーン対艦ミサイル発射
 #6 緊迫の対潜戦訓練
 #7 毎日が実戦! 厨房の戦い
 #8 127mm砲が吼える“対地射撃”
 #9 対空戦訓練 ADEX
 #10 「絆」で結ばれた洋上補給
 #11 イージス艦から見る星々と人工衛星の恩恵
 #12 「ミスターこんごう」
 #13 第1水上戦群司令が語る HA/DRにおける日本への期待

柿谷哲也KAKITANI Tetsuya

フリーランス・フォトジャーナリスト。1966年生まれ。航空機使用事業を経て、自衛隊や外国軍を取材し内外に記事と写真を発表する。外国軍の取材は公式・非公式合わせて74か国。著書多数。

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