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《ニュース解説》日米の防衛産業をより緊密にする「DICAS」とは?

  • ニュース解説

2024-6-25 08:08

去る6月9日(日)に開催された「DICAS」(だいきゃす)の第1回会合は、日米防衛産業の協力を新たなものにしていくための重要な会議でした。日米の防衛装備品開発・取得の両トップを共同議長としたこの協議「DICAS」について、防衛産業に詳しい竹内修(たけうち・おさむ)さんにうかがいました。

DICAS第1回会合に臨んだ、ラプランテ米防衛次官と深澤防衛装備庁長官 写真:防衛省

Jディフェンスニュース :去る6月9日(日)、東京・市ヶ谷の防衛省において、日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)の第1回会合が開催されました。続く10日(月)、11日(日)にも、日米防衛産業のラウンドテーブルや、愛知県にあるF-35生産・整備施設の視察、アメリカ軍艦艇の日本国内整備に向けた話し合いといった、関連の動きがありました。
 そもそもDICASとは、何なのでしょうか?

竹内 :日本とアメリカの防衛産業の協力をより円滑に進めることを目的に設立された、防衛省とアメリカ国防総省が主導する定期会合です。「ディフェンス・インダストリアル・コオペレーション、アクウィジション・アンド・サステインメント」(Defense Industrial Cooperation, Acquisition and Sustainment)の略称で、日本語では「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議」といいます。

Jディフェンスニュース :この6月が第1回会合ということは、まだ設立から間もないのでしょうか?

竹内 :2022年4月に行われた日本の岸田文雄(きしだ・ふみお)総理大臣とアメリカのジョー・バイデン大統領の日米首脳会談で設置が決まりました。
 6月9日に行われたのは、DICASの初めての会合です。日本からは深澤雅貴(ふかさわ・まさき)防衛装備庁長官、アメリカからはウィリアム・ラプランテ国防次官(取得・維持整備担当)らが出席し、DICASの枠組みにおいて、日米の防衛産業に協力を促進し、防衛装備品の共同開発と共同生産、防衛装備品の維持整備に向けた調整を加速していくことなどで合意しました。

Jディフェンスニュース :日米の防衛産業の協力は、これまで円滑ではなかったのですか?

竹内 :日米の防衛産業は日米同盟に基づき、これまでにも長きに亘って密接な協力関係を構築していました。しかし、猛烈な速度で変化する世界情勢や軍事技術の進化に対応するには、十分とは言い難くなっていました。
 DICASは、自衛隊とアメリカ軍の統合運用の要求を政府レベルだけではなく、民間企業である防衛産業のレベルに拡大し、日米両国の防衛協力をより密接にしようというものです。

護衛艦「まや」から試射される、日米共同開発したSM-3ブロック2Aミサイル(2022年11月) 写真:米ミサイル防衛局

Jディフェンスニュース :共同開発と共同生産の加速とは、具体的に何を指すのでしょうか??

竹内 :弾道ミサイルを迎撃するSM-3ブロック2Bミサイルの共同開発は、日米の防衛産業の協力による、具体的な成果のひとつです。そして現在、日本とアメリカは音速の5倍以上(マッハ5以上)で飛翔する極超音速兵器に対処するためのGPI(Glide Phase Interceptor:滑空段階迎撃用誘導弾)の共同開発で合意しています。
 SM-3ブロック2Bは完成まで十年以上を要しましたが、技術的により複雑なGPIの完成にはSM-3ブロック2Bと同程度、もしかしたらそれ以上の時間を要するかもしれません。一方で、極超音速兵器は中国やロシアなどですでに実用化されており、世界情勢の変化などにより、日米両国が早期にGPIを必要とする状況に直面する可能性が高まっています。
 DICASは、日米の防衛産業の具体的協力案件を話し合う場と位置づけられており、両者が協力してGPIの開発速度を上げることも、DICASの主要なテーマのひとつとなっています。
 また、昨年12月の防衛装備移転三原則の運用指針見直しによって可能となったペトリオット迎撃ミサイル(PAC-3)のライセンスバックおよび生産体制の強化なども、主要なテーマの一つと位置づけられています。

※ライセンスバック:ライセンス生産した物品を、ライセンス元に向けて販売すること。

日米が共同開発することになった「GPI」(滑空段階迎撃用誘導弾)のイメージ画 画像:ノースロップ グラマン

Jディフェンスニュース :防衛装備品の維持整備に向けた調整とは、何を示すのでしょうか?

竹内 :在日米軍など極東地域で任務にあたるアメリカ海軍艦艇の維持整備は、これまでに日本人の手でも行われてきました。ただしこの日本人というのは、アメリカ軍に勤務する軍属の人々であり、日本の防衛産業の従業員ではありません。DICASでは、日本の防衛産業に勤務する日本人の手で、アメリカ海軍の艦艇を整備・修理することについても話し合われています。
 6月11日にDICASの作業部会に出席したアメリカのラーム・エマニュエル駐日大使は「紛争が起きた時、アメリカまで艦船を送り返す余裕はない。日本で修理できる体制を整えることが非常に重要だ」と述べ、期待を示しています。

 またDICASでは、アメリカ軍の最新鋭航空機を日本の防衛産業が整備・修理することについても、話し合われることとなっています。
 日本政府とアメリカ政府は2014年12月に、F-35戦闘機の機体とエンジンの整備拠点(デポ)を設けることで合意して、エンジンの整備拠点は2023年7月から運用を開始しています。日本のF-35の整備拠点ではアメリカ軍が保有し、アジア太平洋地域へ展開するF-35の整備も行われる予定となっており、この整備拠点を円滑に活用する上でも、アメリカ軍機の整備・修理に関する話し合いは喫緊の課題となっています。

Jディフェンスニュース :DICASではこのほか、何が話し合われるのですか?

竹内 :防衛装備品のサプライチェーン(供給網)の強化に向けた、日米両国の防衛産業のあり方についても話し合い行われます。
 防衛省は明言していませんが、アメリカ主導で開発・生産される防衛装備品の部品の供給に、日本企業がどれだけ参加できるかがこの話し合いの焦点となりそうです。利益率の低さ、すなわち儲からないことを理由に、防衛事業から撤退する企業が後を絶たない日本の企業にとって、生産数が多いアメリカ製防衛装備品のサプライチェーンへの参入は福音となりえます。その一方で、日本企業家がアメリカ企業の下請けになってしまうのではないかという、懸念の声もあるようです。

西太平洋には旗艦「ブルーリッジ」(写真)以下、数十隻の米海軍第7艦隊が配置されている 写真:アメリカ海軍
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