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《特集》トヨタ・ランクルが自衛隊の装甲車に? 陸自・軽装甲機動車の後継をめぐる新たな展開

  • 特集

2025-9-30 11:55

陸上自衛隊の主力装甲車である軽装甲機動車。数年前に始まったその後継計画が、混迷を極めています。当初は海外製装甲車の選定が進められていましたが、計画は一旦ご破算に。その代わりに浮上したのは、国内メーカーが製造する民生用車両を防弾化するという、従来にはないアプローチでした。竹内 修 TAKEUCHI Osamu

海外でも活躍した軽装甲機動車 後継車両の導入計画

 数の上では自衛隊の主力装輪装甲車となっている軽装甲機動車も、2001(平成13)年の調達開始から間もなく四半世紀を迎える。

 軽装甲機動車は陸上自衛隊だけで1,818両が調達され、国内はもとよりイラクの復興支援や南スーダンでの国連PKO(平和維持)活動などでも活躍したが、主に防御力の面で、調達が開始された21世紀初頭には想定されていなかった、陸上自衛隊の任務の多様化への対応が困難になりつつある。

ジブチの活動拠点でも使われている、陸上自衛隊の軽装甲機動車。開発した小松製作所は、自衛隊装甲車の開発・改良事業から撤退している 写真:菊池雅之

 また搭載している水冷ディーゼルエンジンが、将来の自動車排気ガス規制に適応できない。エンジンを含めて軽装甲機動車を開発したのは小松製作所だが、自衛隊装甲車の新規開発や大規模改良事業から撤退したため、エンジンの改良も見込めない。これを受けて陸上自衛隊と防衛装備庁は、2019年から、軽装甲機動車を後継する「小型装甲車」の導入計画を開始していた。

 小型装甲車は、従来通りであれば、国内メーカーの開発した車両の採用となるところだ。しかし上記の通り小松製作所は撤退しており、他の国内メーカーも装輪装甲車の開発経験が乏しい。そのため、陸上自衛隊と防衛装備庁は外国製品の導入も視野に入れて検討を行うこととなった。

候補として浮かび上がった「ハウケイ」と「イーグル」

 陸上自衛隊と防衛装備庁は、軽装甲機動車の後継装備に「小型装甲車」という仮称を与え、防衛装備庁が「小型装甲車に関する技術資料の作成業務」の入札を行って、2019年10月29日に三菱総合研究所が落札している。ただし、防衛装備庁は技術資料の作成にあたって国内外の軽装甲車両の調査を求めており、外国製品に関しては、アメリカ、オーストラリア、トルコ、スイス、イスラエルの調査を必須とし、1か国以上(イスラエルは必須)を訪問することを条件としていた。

 そして防衛装備庁は、技術資料作成業務の募集要項で、小型装甲車に最低必要な機能・性能として、主に以下の7項目をあげた。

①4名以上の乗車が可能で、火器、弾薬、所要の補給品などを積載できる構造であること
②車体幅は2.6m未満であること
③車体高は2.5m未満であること
④車体長は6.5m未満であること
⑤車体質量は8t未満であること
⑥最高時速は100km/h以上であること
⑦CH-47ヘリコプターによる懸吊、C-130、C-1、C-2各輸送機による被空輸、おおすみ級輸送艦とLCACおよび鉄道での輸送が可能であること

 この調査の期間中、新型コロナウイルスの流行によって海外への渡航が困難になった。そのため、三菱総合研究所がどの程度海外での実地調査を行えたのかは不明だが、防衛省はこの調査結果を参考に「小型装甲車」の仕様要求を策定して企業に提案を求めた。

 その結果、防衛装備庁は2022年3月に、三菱重工業とタレス・オーストラリアが提案した「ハウケイ」(ホークアイ)、丸紅エアロスペースが提案したスイスのモワーグ製の「イーグル」を試験品として購入し、陸上自衛隊の運用試験を経て、両者のいずれかを軽装甲機動車の後継装備に選定する方針を示した。

「DSEI Japan 2023」で展示された「ハウケイ」 写真:竹内 修

真相は隠されたまま 選定は仕切り直しへ

 運用試験は陸上自衛隊の東富士演習場などで行われ、2024年の前半まではメディアに試験走行中の目撃記事が掲載されていた。しかし2024年後半ごろから目撃されなくなり、その後、ある商社から、軽装甲機動車の後継装備導入計画は一旦ご破算となり、防衛装備庁が2024年の冬(11月から12月頃)に、計画を仕切り直すための情報提案要求を企業に向けて出していたという話を耳にした。

 試験品の調達にまで駒を進めた防衛装備品の選定が仕切り直されるのはあまり例がない。防衛装備庁と陸上幕僚監部が仕切り直しの理由を明確にしていないが、ハウケイとイーグルは価格が高すぎて、大量調達が困難になったという話が漏れ伝わっている。

トルコ製装甲車の挑戦

 2025年5月に千葉県の幕張メッセで開催された防衛総合イベント「DSEI Japan 2025」には、前述した小型装甲車の調査業務の対象となったトルコの装甲車メーカーであるオトカ社と、ヌロルマキナ社の両社が出展していた。

 両社とも仕切り直しとなった軽装甲機動車の後継装備選定コンペへの参加は明言していなかったが、防衛省・陸上自衛隊への提案に高い関心を示していた。

 オトカが大型模型を展示した「コブラⅡ」は価格の安さと汎用性の高さが評価され、2025年5月の時点でトルコを含む25か国と国際連合に採用された、ベストセラー軽装甲車「コブラ」の後継車両だ。

 コブラⅡは2025年6月の時点でトルコを含む14か国に採用されており、採用国の一つであるウクライナではロシアとの戦いに使用されている。このため防衛装備品の導入で重視される、実戦で有用性証明、いわゆる「コンバットプルーフ」も十分にあると言えよう。

四輪駆動軽装甲車「コブラⅡ」の模型 写真:竹内 修

 一方のヌロルマキナは「NSM-L」と「ドラゴン」という二種類の四輪駆動軽装甲車の大型模型の展示を行っていた。

 ヌロルマキナは「小型装甲車」の選定コンペにもNMS-Lの原型であるNMSを提案したが、その時は惜しくも選に漏れている。NSMは軽装甲機動車の後継車両に要求されていた能力はすべて充たしていたが、トルコ製の防衛装備品は世界的な評価は高いものの、日本では馴染みが薄く、その点が不利な要素の一つとなったとも言われている。

 ドラゴンはトルコ本国では、トルコ語で「龍」を意味する「エジデル」と呼ばれているが、日本人にはなじみのないトルコ語の名前ではなく、英語で「龍」を意味するドラゴンという商品名を付けたのも、少しでも日本人に馴染みを持ってもらいたいという戦略に拠るものと見て良いだろう。

4輪駆動の軽装甲車「NMS-L」の模型 写真:竹内 修
4輪駆動の軽装甲車「ドラゴン」の模型 写真:竹内 修

 ヌロルマキナは2019年11月に開催された「DSEI Japan 2019」にも参加したが、「DSEI Japan 2025」には同社のイギリス法人「ヌロルマキナUK」として参加している。これは事実上の準同盟国である同志国のイギリスを前面に出して、商戦を行う意図があるのではないかと考えられる。

 オトカとヌロルマキナがDSEI Japan2025に出展した四輪軽装甲車は、前述した小型装甲車の技術資料作成業務の募集要項で防衛装備庁が提示した「小型装甲車に最低必要な機能・性能」の要件を充足しているものと思われるし、おそらく価格もハウケイやイーグルよりも安価だと思われる。

 ハウケイやイーグルより安価で、防衛装備庁が示した要件を充たしている車両は他にも存在しており、トルコ以外の国のメーカーが提案に関心を示しているという話を筆者も耳にしている。

 防衛省と陸上自衛隊の中には、軽装甲機動車の後継装備のライセンス生産を望む声が根強くある。後継装備の調達数は軽装甲機動車に比べれば減ると考えられるが、それでも数百両程度は調達される可能性が高く、国内防衛産業の保護育成という観点においても、ライセンス生産を望む声の根強い存在には一定の合理性はある。

 ただ、前述したように自衛隊装甲車の老舗である小松製作所はその新規生産事業から撤退しており、真偽のほどは不明だが、三菱重工業も共同提案していたハウケイが不採用となったことを機に、軽装甲機動車後継装備の整備事業から手を引くという話もある。提案に関心を示す外国企業は存在しても、生産を担当する国内パートナー企業がなかなか見つからないのが実情のようだ。

民生用車両の防弾化という選択肢

 そんな状態を破るように、NHKは9月27日、防衛省が軽装甲機動車の後継として、民生用車両を防弾化(装甲化)した車両の導入を検討していると報じた。

 NHKは、2026年度予算でトヨタ自動車の「ランドクルーザー」2車種と、いすゞ自動車の「D-MAX」の計3車種を調達して防弾化し、2028年度に評価試験を実施。その上で導入の可否を判断すると報じている。

 民生用車両の防弾化という考えそのものは特段珍しいものではなく、海外の防衛装備展示会では日本製の車両を防弾化した軽装甲車をよく見かける。日本の民生用車両メーカーには車体の防弾化技術はないため、この種の軽装甲車は、海外の特殊車両メーカーが日本のメーカーから車体を購入し、自社が制作した装甲ボディと組み合わせて製造されている。

海外で販売されている日産の汎用四輪駆動車「パトロール」をベースに開発された軽装甲車。車体の装甲化はアラブ首長国連邦の特殊車両メーカーが行っている 写真:竹内 修

 防衛省が試験導入する民政用車両の防弾化は、おそらく日本の特殊車両メーカーが担当することになる。この考え方の根底には、国内防衛産業の保護育成があるのだろう。ただし、日本の特殊車両メーカーには、VIP(要人)用の防弾車両を製造した経験はあっても、軍用レベルの防弾化技術は、イギリスや中東などの企業に比べれば不足している。自衛隊の要求する性能を満たせるかどうかには、技術的な課題が残る。

 陸上自衛隊では現在、96式装輪装甲車の数が不足していることから、一部の部隊で、最前線まで隊員を輸送する装甲兵員輸送車として軽装甲機動車を使用している。このような運用をやめて、軽装甲機動車の本来の想定用途であった偵察や警備にだけ使用するのであれば、民生用車両を防弾化した車両を軽装甲機動車の後継に充てるという考え方もアリなのかもしれない。

(以上)

竹内 修TAKEUCHI Osamu

軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書に『最先端未来兵器完全ファイル』、『軍用ドローン年鑑』、『全161か国 これが世界の陸軍力だ!』など。

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