《寄稿》イラン革命防衛隊の “日本製ミサイル艇” ——監視艇「つばさ」の数奇な運命
- 特集
2026-4-5 08:00
2月28日の開戦以来、アメリカ軍はイラン海軍を容赦なく攻撃し、その模様はSNSで広く発信された。標的とされた船の中に、イラン・イスラム革命防衛隊海軍の1隻の高速ミサイル艇があった。それはかつて日本の海で活躍した、税関監視艇だった。
税関からイラン革命防衛隊へ
2026年3月11日(水)にアメリカ中央軍が公表した、イラン艦艇に対する攻撃を撮影した映像に、ある小型艇が映っていた。高速ミサイル艇「シャヒード・ルーヒ」(P313-11)である。

この船は、2022年9月にイラン・イスラム革命防衛隊海軍に就役した。じつは日本製である。その前身は、横浜税関などで監視艇として20年間にわたって活躍した公船だ。当時の船名は「つばさ」。
監視艇「つばさ」は、2000(平成12)年に就役し、横浜税関に配備された。2008(平成20)年4月に東京税関の新潟税関支署に移管され、2020(令和2)年に退役。その後、関西の民間企業に渡り、海外の仲介業者に売却されたようだ。革命防衛隊はこの仲介業者か、さらに別の仲介業者を通じて入手したものと思われる。
日本で使われていた船舶は保守・整備とも行き届いており、製造年が古くても比較的程度が良いため、中古船として海外に販売されることは多い。しかし外国の公船として再就役することは珍しい。
正規に政府間による売却と再就役が行われたケースとしては、フィリピン沿岸警備隊、ベトナム沿岸警備隊、スリランカ海軍などがある。民間の中古船業者から仲介業者を通じて導入した例としては、中古トロール漁船をマダガスカル海軍に販売し、漁業取締船として再就役したケースがあるので前例がないわけではない。ただ、対艦ミサイルまで備わった重武装に改造された例はない。
ミサイル艇にも流用できた高性能
監視艇「つばさ」は排水量131トン、全長36メートル、全幅7メートルで、武装はなかった。しかしミサイル艇「シャヒード・ルーヒ」では「つばさ」の十分なプラットフォームを活かして、前甲板に機関銃1門、船橋のウイング両舷にそれぞれ機関銃を1門ずつ、その後方の両舷にも1門ずつの機関銃を取り付けている。合計5基の機関銃である。
そして主兵装となるのが、後部甲板に備わる4基の角型キャニスターに装填された対艦ミサイルである。射程は180キロメートルの鹰击※-83(C-801)をイランでライセンスした「Noor」、もしくはそのイラン独自アップグレード版である「Ghader」対艦ミサイルとみられる。※「鷹撃」の簡体字。環境によっては表示されません。
対水上レーダー、探照灯、GPSアンテナ、拡声器などは「つばさ」と同じで、いずれも日本製のようだ。「つばさ」時代は高性能な赤外線監視装置が備わっていたが、これは中古船業者に払い下げたときに降ろされていたものとみられる。

「つばさ」は税関が使用する監視艇としては大型監視艇に区分される最大級の監視艇で、沿岸から近海まで進出できる長距離・長時間の監視が可能。このように基本的に高性能の船体であり、艦尾に対艦ミサイルを設置できるスペースがあったため、革命防衛隊は船体に大きな改造を施すことなく、ミサイル艇に流用できると判断したものと思われる。
船名の「シャヒード・ルーヒ」は、革命防衛隊海兵隊のイマーム・サジャド旅団に所属しシリアで殉職した、ルーヒ・チョカミ戦闘員の名前から命名されているものと思われる。
一般公開も多かった「つばさ」
横浜税関時代、東京税関新潟支所時代の監視艇「つばさ」は、海上での密輸・不正取引を発見・阻止し、貿易の安全を守るために運用される船で、主な任務として、麻薬・銃器・偽ブランド品などの密輸行為を発見し、阻止する密輸対策、パトロールにより、不審な動きをする船舶を監視し、必要に応じて関係機関と連携して対処する不審船監視、税関職員が容疑船に乗り込んで立入検査する際の安全確保と監視を担当する立入検査支援、港がない地域や離島での調査・情報収集任務などがあった。

わずか5、6年前まで港湾の行事やイベントなどで一般公開や体験航海など、市民も見学する機会が多い公船だっただけに、記憶にある市民も少なくないはずだ。また20年間現役にあったので、歴代の日本人艇長や乗員も多いことだろう。ちなみに「つばさ」がイランで2022年に再就役した際、横浜市役所ロビーで税関業務の広報イベント中だった広報職員に当時の「つばさ」乗員のインタビューを申し込んだが、「除籍した船なので分かりません」と断られた。
退役後の第二の人生がイランでミサイル艇となり、さらにアメリカがミサイルで攻撃して破壊されるなど、日本製の船舶としてこれほどまで数奇な運命をたどった船舶は戦後なかったといえるだろう。
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