《特集》護衛艦「もがみ」型の機雷戦──海外での掃海任務にも速やかに対応できる
- 特集
2026-4-18 08:00
“海の地雷”とも称される「機雷」の除去は、旧来、掃海艦や掃海艇の任務だった。しかし、平成30(2018)年度予算で建造が始まった新コンセプトの護衛艦「もがみ」型は、機雷戦能力を有している。これにはどのような意義があるのだろうか。
機雷の処分と敷設が両方できる「もがみ」型
“30FFM” と通称される護衛艦「もがみ」型は、これまでにない新しいコンセプトの護衛艦だ。フリゲートを意味する“FF”に続く“M”は、この艦の特徴である“Middle”(中型)、“Multi-Purpose”(多用途)そして“Mine Warfare”(機雷戦)を表す記号として付与したとされている。

それにしてもなぜ護衛艦で機雷戦なのか。そもそも機雷戦機能とはなにか——。
「機雷戦:Mine Warfare」は、機雷を敷設(ふせつ)する「機雷敷設戦:Mine Laying」と、機雷を対処する「対機雷戦:Mine Counter Measures」に大別される。「もがみ」型には機雷戦機能としてこの二つの機能が付与された。実は機雷敷設と対処の両方ができる艦艇は、長く機雷戦を担当してきた掃海隊群にも存在しなかった。その意味でも極めて画期的な艦であることが分かる。
今後の海上防衛を担う新型護衛艦を建造するにあたり、なぜ機雷戦機能が必要だったのか。そして具体的どのような機能が装備されたのか。掃海母艦の機雷敷設機能や掃海艦艇の対機雷戦機能と同じなのか、違うのか。機雷戦専用艦艇とどのように使い分けるのだろうか。
「もがみ」型の機雷戦装備
機雷を処分する──機雷掃討装備
機雷を処分する戦術には「機雷掃海」(Mine Sweeping)と「機雷掃討」(Mine Hunting)がある。喫水が浅く非磁性で静粛な掃海艇とは違い、磁性を帯びた大型艦であるFFMは自ら機雷原に進入することが不可能である。このため、機雷脅威がない場所から遠隔で機雷を捜索・探知・類識別、処分する無人機による機雷掃討装備が採用された。
① 機雷回避
東日本大震災時には多くの艦艇が派出されたが、水中または海底の瓦礫等障害物を探知・回避できない護衛艦は沿岸に接近できなかった。瓦礫ではないが、FFMが投入される水陸両用戦・沿岸戦海域には、敵が近接阻止のために敷設する各種機雷や、浮遊・浮流機雷が存在する可能性がある。このため「もがみ」型には水中障害物や浮遊・浮流機雷を探知・回避可能とする、一般的にはMine Avoiding Sonarと呼ばれる多機能ソナーが装備された。
また障害物が多い海域や湾内、あるいはタグボートの支援が得られない港湾での操艦性や機雷回避運動の確保、およびUSV等の卸下・回収時の艦位定点保持のため、護衛艦としては初めてバウ・スラスターが装備された。
② 機雷捜索
「もがみ」型には、遠隔で機雷を捜索可能とする自律型水中航走式機雷探知機(OZZ-5)と、多用途に使用可能な無人作業艇(USV)から運用する自走式機雷処分用爆雷(EMD)が装備される予定で、鋭意開発が進められている。
「もがみ」型は機雷脅威がない遠隔地からOZZ-5を投入する。OZZ-5はプログラムに従い自律航走で危険海域内に進入し、両サイドに装備するサイドスキャンソナーで、海底・海中画像を収集する。このソナーは高周波と低周波音波探知機を併せ持つ世界初の合成開口ソナーで、海底の泥中に埋没した機雷の捜索も可能となった。捜索を終えたOZZ-5を艦内に回収、取り出したデータを解析して機雷らしい目標を割り出す。
OZZ-5の水中航走速力が遅いため、一連の作業には多大な時間を要し全般作戦に支障をきたす可能性がある。このため、OZZ-5にUSVを伴走させ、USVを介してリアルタイムでFFMにデータを無線転送する方式が検討されている。

③ 機雷掃討
OZZ-5のデータ解析により選定した機雷らしい目標に、EMDを搭載したUSVを向かわせる。現場に到着したUSVから投入したEMDを遠隔操作し、目標が機雷か否かをカメラの映像で確認する。機雷と判断した場合、圧着させたEMDを自爆させ、機雷を殉爆または無能化させる。



機雷を仕掛ける──機雷敷設装備
開発中の新型機雷が取得されるまでの間、当面は現有の機雷を敷設するため、後部飛行甲板上に設置する敷設軌条(レール)が仮装備されている。新型機雷の敷設方式は未定だが、同艦左舷側艦尾ハッチからの自動敷設、または魚雷発射管の性能を向上させた統合発射管からの敷設が検討されているようだ。
従来の機雷は、陸上基地の弾薬整備補給所で事前に使用目的に応じた調定を依頼してから敷設艦に搭載する必要があった。新型機雷は艦上で機雷感度等を調定できるので、艦内の弾薬庫に常備し、敷設直前に目的に応じた設定を行えるため、機雷を機動的即応武器として使用することが可能となる。
ちなみに新型機雷のセンサーは高性能魚雷と同等であり、水上艦艇・潜水艦の無防備な船底を攻撃するので、その破壊力は絶大である。FFMに限らず敷設ビークルを問わないので、多用途支援艦や有事徴用船、あるいは今後装備される大小の水中無人機からの隠密敷設も可能だ。

護衛艦が機雷戦能力を持つことの意義
① 現場までの進出時間
FFMの最大速力は30ノットであり、MSO(掃海艦)、MSC(掃海艇)の14ノットを圧倒的に凌ぐ。これによりFFMは速やかに作戦海域に進出し、オペレーションを開始することができる。
また外洋航行能力および航続距離も優れるので、例えばペルシャ湾などの海外における機雷処分国際協力が要請されたような場合にも、速やかな派遣が可能となる。
② 自艦防衛能力
FFMが対機雷戦を行うのは、事態収拾後の非戦闘地域における処理ではなく、例えば島嶼奪回のための水陸両用作戦で逆上陸する場合に、敵が敷設した機雷を無能化して上陸用水路を啓開するような、敵脅威下におけるケースが想定される。
その場合の対機雷戦は、敵水上艦艇や戦闘機、または敵支配下島嶼からのミサイルなど、敵の攻撃に対処しつつ行わなければならない。自艦防衛能力がないMSOを投入するならば護衛兵力が必要だが、FFMの場合はある程度の攻撃対処が可能だ。
③ 対機雷戦能力の維持
太平洋戦争末期に米軍が行った対日攻勢機雷敷設作戦の戦史が示すとおり、島国である日本は地政学的に見て機雷攻撃に脆弱であることに変わりない。海自は対機雷戦専用艦艇であるMSO、MSCを減勢させる一方、沿岸戦を行うFFMを整備するにあたり、これに機雷戦機能を持たせることは、対機雷戦能力維持のため不可欠な選択だった。また機雷戦兵力が薄い米軍からの、日本の機雷戦能力への期待度が大きいことは、最近の米海軍大学論文でも明らかにされている。海自が高い機雷戦能力を保持することは、同盟国として果たすべき責務としての相互補完機能でもある。

南西方面の浅い海域を護ることに適した「もがみ」型
冷戦時の戦いは日本列島の東に広がる太平洋、いわゆるBlue Waterと呼ばれる外洋の極めて深度が深い海域であったのに対し、近年の主戦場は九州から奄美・沖縄、台湾に連なる列島線と、その西側に広がる、より浅い海域にシフトした。このほぼ全域が水深200m程度の大陸棚であり、どこにでも機雷敷設が可能で、機雷の脅威が存在するということにほかならない。事実、中国の保有する機雷は新旧あわせて5万から10万個と推定されている。その一方で、中国海軍の対機雷戦能力は近代化が遅れており、その能力は低いと見られる。
これらの情勢から、わが国は引き続き機雷脅威に対抗する高い能力を持つ必要がある一方、防衛兵器としての機雷は海上優勢を得るために極めて有効だといえる。
さらにはFFMが機雷敷設機能を有し、いつでも機動的に戦術機雷を敷設する能力を有することで、この艦が配備布陣された海域には常に機雷脅威が存在する可能性が生じる。これは相手方に機雷の存在を考慮した作戦を強いて、敵の自由度を奪うことになる。
将来的には「もがみ」型護衛艦そのものを無人運用できるよう改装し、敵の懐深くまで進入できる戦闘USV化する案を提唱する有識者もいる。FFMは敵にとっては不気味な「海の忍者」と言えるかも知れない。

初出:『Jシップス』2024年2月号 Vol.114
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