《ニュース解説》中国海軍空母「遼寧」と「山東」 2隻同時の太平洋進出について
- ニュース解説
2025-6-24 16:00
6月中旬、中国海軍の2空母「遼寧」と「山東」の艦隊が、初めて2隻同時に太平洋で活動しました。アジアの安全保障にとってどんな意味があるのか、月刊Jウイング編集部がさぐります。
太平洋に進出し、戻っていった2隻の中国空母
6月中旬、中国海軍の2隻の空母「遼寧」「山東」とレンハイ級ミサイル駆逐艦などで構成された空母機動群が、初めて2隻同時に太平洋で活動した。
最初に太平洋に出たのは「遼寧」の空母機動群である。まず5月25日(日)、東シナ海を南下していたところを海上自衛隊が捕捉した。沖縄・宮古島間を南東進し、このとき艦載機の活動が確認されている。その後、フィリピン東方沖まで南下した後、東へ進み南鳥島の南西約300kmまで進出。折り返した後、沖縄・宮古島間から東シナ海へと抜けた。その間の戦闘機と艦載ヘリによる発着艦回数は、計約700回とされている。
一方、「山東」の空母機動群は6月7日に宮古島(沖縄県)の南東約550kmの海域で初観測された。その後、沖ノ鳥島の周りを時計回りに1周して、6月22日に観測されたのを最後に、台湾とフィリピンと間を抜けて南シナ海へと戻った。その間の発着艦回数は計約420回と報告されている。

今回、硫黄島の東方海域まで中国海軍の空母が進出してきたことと、中国海軍の空母2隻が同時に太平洋で活動したことが、それぞれ初めて確認された。これに対して、統合幕僚長の吉田圭秀(よしだ・よしひで)陸将は重大な懸念を示している。
今回の活動を中国海軍の王学猛(おう・がくもう)報道官は、「中国海軍の遼寧空母編隊と山東空母編隊が最近、西太平洋などの海域に展開し、部隊の遠海防衛能力と統合戦闘能力を検証する訓練を実施した。これは年間計画に基づいて実施される定例訓練であり、任務遂行能力の継続的な向上を目的としている。関連する国際法と国際慣行に準拠しており、特定の国や標的を標的とするものではない。」と述べている。年間計画に基づいた定例訓練として位置付けているということは、今後も同規模の訓練が行われることを示唆しているとみていいだろう。
2つの空母機動群の中身
空母「遼寧」と「山東」。この2隻を中心にした空母機動群の構成を詳しく見てみよう。()内は艦番号。
「遼寧」空母機動群
▪クズネツォフ級空母「遼寧」(16)
▪レンハイ級ミサイル駆逐艦(101、104)
▪ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦(121、122、131、155、158)
▪ジャンカイⅡ級フリゲート(515、534、538、599)
▪フユ級高速戦闘支援艦(901)
▪フチ級補給艦(903)
「山東」空母機動群
▪クズネツォフ級空母「山東」(17)
▪レンハイ級ミサイル駆逐艦(107)
▪ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦(165)
▪ジャンカイⅡ級フリゲート(571、572)
▪フユ級高速戦闘支援艦(905)
目的不明の艦艇
▪レンハイ級ミサイル駆逐艦(102)
▪ジャンカイⅡ級フリゲート(550)
▪ドンディアオ級情報収集艦(794)
それぞれの空母機動群は、空母を中心にレンハイ級とルーヤンⅢ級のミサイル駆逐艦、ジャンカイⅡ級フリゲート、フユ級高速戦闘支援艦とフチ級補給艦で構成されている。特に遼寧の方にいるルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦とジャンカイⅡ級フリゲートの数が際立って多いが、統合幕僚監部から公表されている資料では、それぞれ1ないし2隻が付近にいるとされているので、交代または艦隊を一時離脱して離れたところにいるなどしているのだろう。
「遼寧」と「山東」に搭載されている航空機は、J-15戦闘機と艦載ヘリのZ-8およびZ-9だ。J-15については、カタパルトでの発艦ができるようになった派生型J-15Tも確認されている。J-15Tは、まもなく就役すると見られる中国海軍の3隻目となる空母「福建」に搭載される予定であり、先行配備することでパイロットと空母の乗組員向けの訓練を行っているのかもしれない。
太平洋で行った訓練と2隻同時の活動
これまでに統合幕僚監部が発表した資料や中国系メディアが報じた内容を読み解くと、2隻の空母で、少なくともJ-15戦闘機や艦載ヘリの発着艦訓練と洋上補給の実施が確認できる。発着艦訓練は、夜間も実施しているようで、艦上運用の練度は日毎に向上していると言っていいだろう。
そのほかに実施した訓練については不明だが、防空戦や対水上戦、対潜戦などを実施している可能性がある。また、小笠原諸島からグアムを結ぶ「第2列島線」まで進出して活動することは初めてとなるので、今後の活動に活かすための何らかの活動を行ったのだろう。
もうひとつ重要なトピックは、「2隻同時に活動した」ことだ。西太平洋で2隻の空母が活動したのは初めてで、この点でも自衛隊は警戒心を高めている。新華社通信によれば、南シナ海において2024年10月に初めて2隻が同時に活動しているので、今回は2例目となる。
中国の海洋進出におけるマイルストーン
南シナ海は中国やその他の国も領有権を主張するなど、その情勢は年を経るごとに緊迫度を増している。
ベトナムやフィリピンなどと領有権争いを繰り広げる中国は、九段線を主張し、南沙諸島などにある一部の岩礁地域を埋め立て、実効支配を進めている。

南シナ海を重要視するのは、中国が構想する西方への広域経済圏「一帯一路」政策に起因するものだ。中国以西の様々な国への海上輸送において、南シナ海は重要な海域だ。だからこそ、南シナ海への軍事的プレゼンスを強めるため空母2隻を同時に運用させて周辺国に実力をアピールしたと推測できる。
太平洋は一帯一路に大きく関わらないが、中国が安全保障戦略の一環として第1列島線と第2列島線という概念を設定し、空母2隻は二つの列島線の間を中心に訓練を行っている。これまではH-6K爆撃機などが太平洋を飛行した例はあるが、空母まで進出して来るとなると、いわゆる「A2/AD」(接近阻止・領域拒否)能力が強化されたと言っても過言ではないだろう。
もうしばらくすると3隻目の空母「福建」が就役し、東海艦隊の所属になるとされている。そうなれば太平洋から最も近いところに最新鋭艦を配備することになるので、ますます警戒が必要だ。
そのため、今回の空母2隻による西太平洋での活動は、中国だけでなく日米にとっても防衛戦略上の重要なマイルストーンとなる。だからこそ自衛隊の警戒監視に対して敏感でかつ強行的な手段を取るのかもしれない。
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