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石破総理が国連総会で演説 国連の限界と安保理改革を訴える(9月24日)

  • 日本の防衛

2025-9-26 14:39

 外務省は令和7(2025)年9月24日(水)、石破茂(いしば・しげる)内閣総理大臣が第80回国連総会で同日に行った一般討論演説の全文を以下のように公表した。

第80回国連総会における石破総理大臣一般討論演説

国連総会議場で一般討論演説を行う石破総理 写真:内閣広報室
国連総会議場で一般討論演説を行う石破総理 写真:内閣広報室

1 総論

 議長、ご列席の皆様、

 今、ここに我々が一堂に集う国際連合の目的とは何であるのか。

 国連は現在、果たすべき役割を果たしているのか。

 今から80年前、国際連合は、集団安全保障に支えられた新たな国際秩序の中核となるべく設立をされました。

 歴史上初めての総力戦となった第一次世界大戦。その再来を防ぐべく設立された国際連盟。しかし、それは第二次世界大戦を防ぐことができなかった。その反省を踏まえ、国際連合は、国際の平和と安全を守るための組織として、戦勝国を中心に創設されました。

 しかし、80年経った今、はたして、現在の国連は、当初期待された役割を果たしているのか。その機能を十全に発揮できているか。

2 国連の成り立ち・平和と安全

 議長、

 平和と安全は決して所与のものではない。積極的に努力していかなければ平和と安全はもたらされるものではない。

 国連憲章に規定される国連の最も大事な目的は国際の平和及び安全の維持です。その主要な責任を負うのが安全保障理事会であり、国連の設立に主導的役割を果たした5つの国には、安全保障理事会での常任ポストと拒否権という特別な権利が与えられ、そうであればこそ、特別な責任を負うことになりました。安全保障理事会の下に、国連軍を創設することも規定されました。安保理が機能しない場合を考慮し、各国の個別的自衛権や集団的自衛権が認められました。

 しかし、この安保理は、常任理事国の拒否権ゆえに、多くの危機的なケースにおいて、必要な決定を下すことができなかった。

 もちろん、加盟国は叡智を出し合い、様々な仕組みを創造的に発展させてきた。

 1950年には「平和のための結集総会決議」が可決され、総会が行動を起こすことができるようになった。1956年、スエズ動乱では、常任理事国たるイギリス、フランスを含む当事国が、総会緊急特別決議を受け入れることで、戦闘は停止されました。憲章にはない平和維持活動も創設されました。

 湾岸戦争では、安全保障理事会決議により、加盟国による武力行使が容認されることになりました。

 2022年には、拒否権を行使した常任理事国は、この総会での説明を求められることになりました。

 しかしこのような取組にもかかわらず、安保理は今なお、十分に機能を発揮できていません。

 その最たる例が、ロシアによるウクライナ侵略であります。国際の平和と安全に特別な責任を有するはずの安全保障理事会常任理事国が、隣国を侵略し、国際秩序の根幹をゆるがしています。安保理決議は拒否権で採択されず、即時撤退をロシアに求める総会決議は採択されても履行されていない。ロシアは、憲章第51条を独善的に解釈をして、集団的自衛権の名の下に、ウクライナ侵略を継続しています。これは、1968年の「プラハの春」を想起させるものであって、国連憲章第51条は、決して恣意的に用いられてはなりません。

 拒否権は、大国間の直接の衝突を回避するための安全弁として、やむを得ざる選択であったものと思います。しかしながら、国連が抱える内在的な限界はもはや明らかであります。

 議長、

 国連の歩みを回顧すると、安保理の改革を今こそ断行しなければなりません。

 常任・非常任双方の拡大は必要であります。創設時と比べて加盟国数が4倍に増えたにもかかわらず、常任理事国の数は創設された時のままです。むやみに理事国の数を増やせばよいわけではありません。しかしながら、安保理の実効性を損なわない形で代表性を高めることは可能であります。

 理事国の数を増やすに当たっては、常任理事国の持つ拒否権の扱いにも留意をしなければなりません。新たな常任理事国については、拒否権を15年間凍結することを我々G4は提案しています。

 安保理の拡大を行い、国連が、より高い正統性をもって直面する諸課題に取り組むようになれば、少なくとも現在よりは良い組織、あえて言うならば「今よりまし」な組織になるはずです。

 我々国連加盟国の首脳は、昨年の「未来のための約束」において、安全保障理事会を改革する緊急の必要性を認識し、改革に向けた取組を強化すると世界に宣言をしました。しかし、この1年、どれだけ議論が前に進んだでしょうか。我々には、安保理改革の実現に向けた議論を加速させ、早急に結論を得る責任があります。各国が拡大の在り方をめぐり足の引っ張り合いをしているような猶予はありません。私が演説を行っている今この瞬間も、この世界には、無辜の人々、罪のない人々の命が失われていることを強く認識しなければなりません。責任あるグローバル・ガバナンスの再構築。安保理改革の断固たる実行。我が日本国は、これを強く国際社会に呼びかけます。

 議長、

 冷戦の終結により、世界に平和が実現するとの希望が芽生えた時期も確かにありました。しかし、それははかないものでした。旧ユーゴスラビアに代表される民族紛争。このニューヨークも攻撃対象となった同時多発テロ。国家ではない主体が、国家と同等の破壊力を持つという、国連創設時には想像もしなかった事態が生じました。

 領土、民族、宗教、経済的格差。こうした紛争の種が世界から消え去ることは残念ながらありません。むしろ、多極化する国際社会において、これらは一層先鋭化してきております。この厳しい時代環境において、国連はいかなる役割を果たすべきなのか。

 議長、

 パレスチナをめぐる情勢は、国際社会が長きに亘り希求をし、我が国も一貫して支持をしてきた「二国家解決」の前提を揺るがしかねない、極めて深刻かつ憂慮すべき局面にあります。今般のイスラエル軍によるガザ市における地上作戦の拡大は、飢餓を含む既に深刻なガザ地区の人道危機を著しく悪化させるものであり、我が国として断じて容認できず、この上なく強い言葉で非難を致します。作戦の即時停止を求めます。イスラエル政府高官から、パレスチナの国家構想を全面的に否定するかのごとき発言が行われていることには、極めて強い憤りを覚えます。

 ガザの人々が直面する想像を絶する苦難を看過することは、断じて許されません。我が日本国は、これまでもガザの傷病者の方々の日本での治療を始めとする人道支援を通じ、常にガザの人々の命と尊厳に寄り添い続けてまいりました。これからも日本はあらゆる努力を尽くしてまいります。

 かつては、数世紀にわたって、ユダヤ人、アラブ人とが平和裏に共存していた時代、そのような時代がたしかにあったのです。今私たちが目にしているハマスによるテロやガザにおける惨状には、多くの人々が深く悲しんでいます。オスロ合意以来、幾多の困難を乗り越え国際社会が積み重ねてきた二国家共存への歩みを、決して途絶えさせてはなりません。

 我が国にとり、パレスチナ国家承認は、「国家承認するか否か」ではなく、「いつ国家承認するか」の問題です。イスラエル政府による一方的行為の継続は、決して認めることはできません。「二国家解決」実現への道を閉ざすことになる更なる行動がとられる場合には、我が国として、新たな対応をとることになることを、ここに明確に申し述べておきます。最も重要なことは、パレスチナが持続可能な形で存在をし、イスラエルと共存することであり、我が国は、二国家解決というゴールに一歩でも近づくような現実的かつ積極的な役割を果たし続けてまいります。

 我々として、パレスチナを国際社会の責任ある参画者として招き入れる以上、パレスチナ側も責任ある統治の体制を構築しなければなりません。9月12日の総会決議でも確認されたとおり、ハマスは人質をただちに解放し、武器をパレスチナ自治政府に引き渡すことを強く求めます。

 我が日本として、パレスチナの国づくり、すなわち、経済的自立と有効な統治の確立を強力に支えてまいります。我が国が支援して立ち上げたヨルダン川西岸地区のジェリコ農産加工団地では、現在、パレスチナ企業17社が300人以上の住民を雇用しており、オリーブを加工したサプリメント、食品や医薬品など、付加価値を高めた産品の輸出を行っています。経済的自立は確保していかねばなりません。

 高い使命感と能力を持った公務員なくして、国家は決して機能しません。公務員の汚職があっては決してならないのであります。我が国は、公務員の能力強化のため、これまで27年間で7000人以上のパレスチナ人に研修を実施してまいりました。これからも、パレスチナにおける人材育成を積極的に支援してまいります。

 こうした取組を進めるに当たっては、インドネシアやマレーシアといったムスリム国を含め、東南アジアの仲間の国々とも連携をしてまいります。我が国はそのための枠組みを12年前の2013年に立ち上げ、主導してまいりました。

 我が国は、アブラハム合意の拡大を通じて、中東地域全体に持続的な平和と安定をもたらそうとする構想を強く支持しています。アブラハム合意、それは、ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒の共通の父祖の名前を冠した合意であります。この2年、アブラハム合意の実現に向けた歩みが停滞していることは極めて残念でありますが、このアブラハム合意の持つ価値が損なわれることは決してないと私は強く信じています。

 議長、

 核による脅しが安全保障理事会常任理事国により平然と行われています。核使用のハードルが、敷居が下がりかねないものであり、核抑止の実効性にも新たな揺らぎが生じる現状を私は強く憂います。我々は、核兵器の問題に今こそ正面から立ち向かわなければならない、向き合わなければならないのです。

 国内外に、唯一の被爆国である我が国に対し、核兵器禁止条約への参加を求める声があることは私は十分に承知をいたしております。

 しかし、我々は、「核戦争のない世界」を維持し、そして、「核兵器のない世界」を実現しなければなりません。核戦争のない世界、そして将来的に核兵器のない世界を実現しないといけない。そのためには、核の保有国・非保有国の双方が集うNPTこそが、最も効果的で現実的な唯一の枠組です。我が国は、来年のNPT運用検討会議が成功裏に行われ、世界が「核兵器のない世界」に一歩でも近づくことができるよう、国際社会に対話と協調の精神を強く訴えます。

 核をめぐり非常に厳しい安全保障環境に置かれる我が国にとって、米国による核を含む拡大抑止は、国民の生命・財産を守り抜くために、これからも必要であります。私は抑止論を否定する立場には立ち得ないものです。それが責任ある安全保障政策を遂行する上での現実であります。しかし、我が国が経験した核による惨禍、悲劇は、この世界で二度と繰り返されてはなりません。

 広島が最初の被爆地であることは歴史的事実であります。これは変わることはありません。しかし、長崎が最後の被爆地になるかは、人類のたゆまぬ努力と賢慮にかかっています。

 世界の多くの人にとって、原爆のイメージは、投下直後に上空から撮影された、立ち上がるきのこ雲でしょう。しかし、80年前の広島と長崎で、あのきのこ雲の下では実際に何があったのか。

 本年8月6日、私は広島市での平和記念式典に出席をし、一つの短歌を紹介しました。

 「太き骨は先生ならむ そのそばに 小さきあたまの骨 あつまれり」。

 爆心地の近くにある「原爆犠牲国民学校教師と子どもの碑」。これに刻まれた、歌人・正田篠枝さんの歌です。燃え盛る炎の中で、生徒たちは必死に先生を、教師を頼ります。すがりつきます。その生徒たちを守れなかった教師。その無念の声が聞こえてきます。

 多くの一般市民が一瞬にして命とその未来を奪われました。生き延びた人々も長く放射線による健康被害に苦しんできました。その苦しみは、原爆投下から80年を経た今もなお続いているのであります。世界の指導者、そして、これからの時代を切り拓く若い皆様方は、是非とも、広島・長崎を訪れ、被害の実相を知っていただきたいと、私はこのように強く願います。

 議長、

 この「核兵器のない世界」に向けた取組に、今まさに、真っ向から挑戦しているのが北朝鮮です。その核・ミサイル開発は国際社会の平和と安全に対する重大な脅威です。完全な非核化に向けた幾多の安保理決議の完全な履行を、私は北朝鮮に強く求めます。

 加えて、我が国と北朝鮮との間には、拉致問題もあります。拉致被害者及びその御家族も高齢となり、時間的制約のある拉致問題は、ひとときもゆるがせにできない人道問題であります。

 日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化を目指す。この方針に変わりはありません。

 我が国は、引き続き、北朝鮮に対し対話を呼びかけます。国際社会の皆様には、引き続き、御理解と御支援を強くお願いするものであります。

3 開発

 議長、

 国連の役割は狭い意味での安全保障面だけではありません。国際の平和と安全の実現のためには、国連の経済、社会面での活動も不可欠であります。

 日本が重視してきた「人間の安全保障」の理念は、個人に着目をし、人間の尊厳を守る概念であります。日本は、援助を通じて、特定の経済的権益や軍事的拠点を求めるものでは決してありません。ただ、純粋に、世界中全ての国と、共に笑い、共に泣き、共に汗を流したい。これが我が日本の国際協力の基本であります。

 この決意の下、先月、我が日本国は、横浜において、第9回アフリカ開発会議(TICAD)を主催しました。1993年の立ち上げ以来、我が日本は、アフリカ自身の課題解決を支える姿勢を貫いてまいりました。本年の会議でも、アフリカ各国が直面する課題について、日本の技術や知見を生かした革新的な解決策を共に創りだすことを打ち出しました。

 アフリカとインド洋地域の貿易・投資の活性化、アフリカの域内統合に向けて、「インド洋・アフリカ経済圏イニシアティブ」も打ち出しました。この推進に当たっては、インドとも緊密に連携をいたしてまいります。我が国は、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けて、今後も力を尽くしてまいります。

4 結語

 議長、

 いずれの国も、歴史に真正面から向き合うことなくして、明るい未来は拓けません。戦争の惨禍を決して繰り返さない。今年の8月15日の終戦記念日に当たり、私自身、そのことを、改めて心に刻むことを誓いました。

 国際社会を分断させる、人類2度目の世界大戦を経験した世代の多くが、各国において社会の中心から去りました。その中にあって、国際社会は再び分断と対立に向かっています。日々、多くの命が失われるウクライナ、中東。そして、日本が位置する東アジア。これらの地域の安全保障は相互に密接に関連しております。我々がこれまで希求してきた法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序は、今まさに、歴史的な挑戦を受けています。

 私は強く訴えたい。この挑戦に立ち向かうに当たっては、健全で強靭な民主主義をこれからも育て、守り抜くことが肝要だということを。

 私は、民主主義が広がれば世界に平和が訪れるといった楽観論には立ちません。全体主義や無責任なポピュリズムを排し、偏狭なナショナリズムには陥らない。差別や排外主義を許さない。このように健全で強靭な民主主義こそが、自由で開かれた国際秩序の維持、強化、国際の平和と安全に大きく資するものと私は信じるものであります。

 その土台となるのは、過去を直視する勇気と誠実さ、人権意識の涵養、使命感を持ったジャーナリズムを含む健全な言論空間、そして、他者の主張にも謙虚に耳を傾ける寛容さを持った本来のリベラリズムです。

 議長、

 アジア・アフリカ諸国が初めて結集して、世界平和と協力の推進を訴えたバンドン会議から70年が経ちました。これは、我が日本国が終戦後初めて参加した本格的な国際会議でありました。

 アジアの人々は、戦後、日本を受け入れるに当たって寛容の精神を示してくださいました。そこには、計り知れないほどの葛藤があったはずであります。しかし、こうした寛容の精神に支えられて、不戦の誓いの下、我が国は、世界の恒久平和の実現のため、力を尽くしてきました。

 私は、韓国や中国、東南アジアを始めとするアジアの首脳の皆さんと意見を交わす中で、未来志向の関係を更に進めるべきことを改めて確信し、その思いを各国首脳と共有をいたしました。

 この1年、アジアや中南米の諸国を訪問するとともに、日本においでになる多くの首脳の皆さんと会談を重ね、その数は90か国・4つの国際機関に至りました。その中で、世界の国々にとって日本は必要とされているとの思いを、数多くの機会に感じてまいりました。我が日本はこれからも世界から求められる国であり続けたい。そう強く願うものであります。

 一日も早い安保理改革の実現を。
「核戦争なき世界」、「核兵器なき世界」の実現を。
共に地球規模課題を克服できる世界を。
そして、分断より連帯、対立より寛容を。

 日本は、これからも国際社会と共に歩んでまいります。決して揺らぐことなく、取組の先頭に立ち続けてまいります。この決意をもって私の演説を閉じることとしたいと思います。

 ご清聴ありがとうございました。

(以上)

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