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次世代レーダーSPY-6(V)を学ぶ──第2回 海自とSPY-6(V)の関係

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2024-10-11 15:52

前回は、RTX社レイセオン事業が手掛けている新型の艦載多機能レーダー、AN/SPY-6(V)の概要を紹介した。今回は、気になるSPY-6(V)と日本の関係、「では、そのSPY-6(V)を日本で導入することになったら……?」という話を取り上げてみよう。今回もレイセオン ジャパンの社長である永井澄生氏のお話を交えてご紹介する。井上孝司 INOUE Koji

どうなる?「こんごう」型後継艦

 海上自衛隊は現在、3クラス8隻のイージスDDGを配備している。このうち、建造時期が早い「こんごう」型は、延命改修を実施してはいるものの、他の艦と比べると早い時期に、艦そのものが寿命に達する可能性が高い。すると、そこからさらに戦闘システムをごっそり入れ替えるよりは、新設計の代艦を建造する方が経済的、という意見も出てくるだろう。
 さらに最近では、イージスDDGの数を8隻から10隻に増勢する話が取り沙汰されている。増勢のために新しいDDGを建造するのであれば、それをもう4隻上積みして「こんごう」型の代艦に充てるのは、筋の通る考え方といえる。なるべく同じ能力、同じ形態の艦で揃える方が、運用面でも維持管理面でも有利だ。
 では、そこに搭載する戦闘システムをどうするか。海上自衛隊のDDGに搭載するイージス戦闘システムは、FMS(Foreign Military Sales)を通じてアメリカから調達している。FMSの仕組みでは、まず米海軍がメーカーに発注して機材を取得した後で、それを日本のようなカスタマー国に引き渡すことになっている。
 ところが、「米海軍は、もうベースライン9.x搭載艦の新造を行わず、ベースライン10に注力することを決定しました」と永井氏は語る。これでは、他国がベースライン9.xのイージス戦闘システムを欲しいといっても、入手が難しい。わざわざ海外カスタマーのためだけに、ベースライン9.xのシステムを製造してもらうのも面倒な話だ。
 すると、米海軍と足並みを揃えて、AN/SPY-6(V)1を使用するベースライン10.xを導入する方が合理的、という考え方が出てくる。そもそも、米軍の装備調達に相乗りできるのがFMSの利点であるからだ。
 そして、AN/SPY-6(V)1は、米海軍の正式な調達プログラム(PoR : Program of Record)の下で開発・試験が完全に終了し、配備を進めている製品だ。すでに海上試験で成功を収めており、相応に熟成も進んでいる。そして、今後、40年間にわたる運用が確約されているし、その過程ではさらなる熟成や改良も進むだろう。そうなると、海外カスタマーは最初から、完成度が高い製品を手に入れられると期待できる。
 戦闘システムだけでなく、そこで使用するミサイル(SM-2、SM-3、SM-6)についても同様で、レーダーと共に米海軍による試験・評価と熟成がなされている点を無視してはならない。システム・インテグレーションや試射といった作業を、自国でリスクを負い、手間と経費をかけて実施する必要がないからだ。
 また、前回に取り上げたように、米海軍ではイージス戦闘システム装備の駆逐艦だけでなく、フリゲート、揚陸艦、空母などその他の艦にもAN/SPY-6(V)をファミリー展開する。実際、米海軍は今後10年間で60隻以上の艦船にSPY-6(V)を搭載する計画だ。すると、RMA(Radar Modular Assembly)を初めとする各種構成要素の製造数が増えることになる。それはとりもなおさず、スケール・メリットを発揮して日本にとってのコスト低減につながる可能性につながることを意味するのだ。
 マサチューセッツ州アンドーバーにあるRTX社レイセオン部門の事業所は、垂直統合型の高度な製造センターであり、Sバンド、Xバンド、Cバンドのレーダーやアレイなど、さまざまなシステムを製造している。 同事業所の窒化ガリウム(GaN)ファウンドリーは、軍用レベルのGaNベースのレーダー部品製造において、世界最先端といえる。これらのGaN半導体素子は、AN/SPY-6(V)の中核となる。また、アンドーバー事業所では、個別のパーツから完成品のレーダーまで、一貫生産する体制を敷いている。
 ことに、キーとなる枢要部品を他社に依存していると、そちらの都合に影響されて生産ペースを上げたくても上げられない、という話になる可能性がある。しかし、枢要部品を自社で製造できる体制にあれば、需要の変動に対応するのは比較的容易。しかも、まだ設備能力の面では余裕を残しているので、追加発注が見込めるとなれば、生産ペースを引き上げる対応はやりやすい状況にあるといえよう。
 こうしてみると、これからイージスDDGを新造するのであれば、AN/SPY-6(V)1を中核とするベースライン10は、もっとも低リスクの選択肢であるといえる。

後継艦が気になる「こんごう」型3番艦の「みょうこう」。「こんごう」型は2004年から2006年にかけて改修が行われ、弾道ミサイル防衛(BMD)能力が付与されている 写真:花井健朗
SPY-6(V)を製造するアンドーバー工場の様子。同工場ではレーダーの基礎となる窒化ガリウム半導体の製造からアレイアンテナの組み立てまで、SPY-6(V)製造の全工程を担っている 写真:RTX
電波暗室内でSPY-6(V)のアレイアンテナを検査している様子。アンドーバー工場はこのような巨大な電波暗室も複数備えている 写真:RTX

「あたご」型や「まや」型はどうするか

 では、すでにイージス戦闘システムをベースライン9.xに更新した「あたご」型や、当初からベースライン9.xを装備している「まや」型はどうか。この両クラスは、今後も長期にわたって第一線にとどまるだろう。すると、代艦建造ではなくイージス戦闘システムの更新が現実的な選択肢となる。その場合、米海軍のアーレイ・バーク級フライトⅡAに対するDDG mod 2.0改修と同様に、この両級にAN/SPY-6(V)4をバックフィットしてはどうか、という話が出てくるかも知れない。
 「あたご」型と「まや」型が現時点で装備しているレーダーはAN/SPY-1D(V)だが、AN/SPY-6(V)4はそれと同等のサイズ・消費電力で納まるように、RMAの数を24個としている。AN/SPY-6(V)1と比べるとRMAの数は少ないが、それでも現行のAN/SPY-1D(V)と比べれば能力は大幅に向上する。
 AN/SPY-1D(V)とAN/SPY-6(V)4は、アンテナ・アレイの物理的な形状が完全に同じではないので、うまく換装できるのかという疑問も生じるが、AN/SPY-6(V)4は現在のAN/SPY-1D(V)のスペースに収まるように設計されているようだ。それならば、艦の改修を最小限に抑えられ、より迅速に運用再開を迎えられるだろう。

社長のひとこと

米海軍では、アーレイ・バーク級フライトⅡAを対象とするAN/SPY-6(V)4のバックフィットを強力に進めるため、専門の部署まで設立しています。米海軍が先にバックフィットの作業を進めていますから、日本が同じことをするなら、米国では複数の艦で作業が完了している製品を取得できるということになります。これは、潜在的な初期不良がすでに解消されているということでもあります

「あたご」型のネームシップ「あたご」。前型の「こんごう」型よりも船体を延長し、本型からはヘリ格納庫を備える 写真:花井健朗
「まや」型の1番艦「まや」。海自にとって最新のDDGである本型は、海自随一のBMD能力を誇る 写真:花井健朗
現在、海自のイージス艦すべてに搭載されているAN/SPY-1D(V)。本国アメリカでは、アーレイ・バーク級フライトⅢからSPY-6(V)1に置き換えられている 写真:花井健朗
井上孝司INOUE Koji

1966年7月生まれ、静岡県出身。1999年にマイクロソフト株式会社(当時)を退社してフリーライターに。現在は航空・鉄道・軍事関連の執筆を手掛けるが、当初はIT系の著述を行っていた関係でメカ・システム関連に強い。『戦うコンピュータ(V)3』『現代ミリタリーのゲームチェンジャー』(潮書房光人新社)、『F-35とステルス』『作戦指揮とAI』『軍用レーダー』(イカロス出版、わかりやすい防衛テクノロジー・シリーズ)など、著書・共著多数。『Jウイング』『新幹線エクスプローラ』『軍事研究』など定期誌や「マイナビニュース」「トラベルウォッチ」などのWEBメディアにも寄稿多数。

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