日本の防衛と安全保障の今を伝える
[Jディフェンスニュース]

site search

menu

Jディフェンスニュース

次世代レーダーSPY-6(V)を学ぶ──第2回 海自とSPY-6(V)の関係

  • Sponsored

2024-10-11 15:52

前回は、RTX社レイセオン事業が手掛けている新型の艦載多機能レーダー、AN/SPY-6(V)の概要を紹介した。今回は、気になるSPY-6(V)と日本の関係、「では、そのSPY-6(V)を日本で導入することになったら……?」という話を取り上げてみよう。今回もレイセオン ジャパンの社長である永井澄生氏のお話を交えてご紹介する。井上孝司 INOUE Koji

SPY-6(V)ファミリーの能力向上構想いろいろ

 その、米海軍が推進しているDMOの下では、これから配備が進んでいくAN/SPY-6(V)が、空に対する“ 眼” として重要な役割を果たす。単に、分散展開した個々の艦が搭載するレーダーの探知情報を集約・共有するだけではない。では、具体的にどんな構想があるのか。
 AN/SPY-6(V)における特徴のひとつに、ソフトウェア制御になっている点がある。つまり、レーダーの機能を半導体素子や電子回路といったハードウェアで作り込むのではなく、コンピュータで処理している。そのコンピュータで実行するソフトウェアを改良すれば、同じハードウェアのままで能力が向上したり、新たな機能が加わったりする。そして実際、米海軍ではすでにAN/SPY-6(V)に対して新たな能力を付加する計画がいくつか走っている。
 まず、ADR(Advanced Distributed Radar)計画。この計画の下、複数のAN/SPY-6(V)同士で探知情報を共有しながら協調動作するNCR(Network Cooperative Radar)ソフトウェアを開発して、2021年に実証試験を実施した。先に述べたように、米海軍は分散海洋作戦(DMO)の構想を推し進めている。すると、離れた場所にいる複数の艦同士でレーダーを協調動作させるNCRのような機能が活きてくる。
 また、パッシブ・レーダー機能を実現するROCR(Receive Only Cooperative Radar)の開発を、米海軍は2020年に発注した。パッシブ・レーダーとは、自身は受信専用として、他の電波発信源が出した電波が何かに当たって反射波を返してきたときに、それを受信して探知を成立させるもの。電波を出さなければ逆探知もされないから、自身の存在を秘匿しながら敵を探知できる可能性につながる。
 また、この機能を活用すると、電波発信源と受信機が別々のところに位置することになる。すると、レーダー電波を明後日の方向に逸らすことで被探知の可能性を下げているステルス機に対して、ひとつの対抗手段ができると期待できる。ある場所にいるAN/SPY-6(V)搭載艦がレーダーを作動させる一方で、別の場所にいる複数のAN/SPY-6(V)搭載艦はレーダーを受信専用として聞き耳を立てる。するとマルチスタティック探知が可能になるし、レーダー電波の発信によって存在を暴露する艦の数を最小限にできる。
 上記のような新しいレーダー能力の開発は非常に大規模な事業だが、米国海軍がすでに開発中のハードウェアを利用することで、日本は共同開発に参加し、コスト削減を実現できる。他のレーダーを利用するなら、日本が米国の支援なしにレーダーの開発、テスト、実用化をすべて担わなければならず、レーダーのコストが上がってしまうだろう。

射撃試験でSM-3ブロックⅡAミサイルを発射する「まや」。CECの活用によってより広範囲の防衛および攻撃が可能になる 写真:USN

導入・運用だけの話ではない

 ここまでは、海上自衛隊のさまざまな艦について、AN/SPY-6(V)を導入する可能性について取り上げてきた。しかし、単に完成品のレーダーを輸入して搭載するだけの話ではなく、三菱電機や三波工業など日本企業がAN/SPY-6(V)の生産に参画するいうことも発表されている。その、産業基盤の維持・発展に関わる詳しい話は、次回に取り上げたい。

アーレイ・バーク級に搭載されているCEC用板状アレイ・アンテナ。大容量のデータリンク通信を行う 写真:Jシップス編集部

レイセオン日本社長 永井澄生(ながい すみお)

1961(昭和36)年 1月生
1983(昭和58)年 3月 防衛大学校卒業(27期)
同年 4月 海上自衛隊入隊
1987(昭和62)年 2月 護衛艦よしの応急長
1989(平成元)年 3月 海洋観測艦あかし航海長
1990(平成2)年 3月 防衛大学校訓練教官
1994(平成6)年 6月 アメリカ海軍士官学校教官
1996(平成8 )年 8月 護衛艦ゆうぎり砲雷長
2000(平成12)年 9月 護衛艦おおよど艦長
2002(平成14)年 4月 在インドネシア日本国大使館防衛駐在官
2010(平成22)年 8月 第15護衛隊司令
2011(平成23)年 12月 対潜資料隊司令
2014(平成26)年 12月 海洋業務群司令
2015(平成27)年 12月 海洋業務・対潜支援群司令
2018(平成30)年 3月 海上自衛隊退役
同年 8月 レイセオン入社 レイセオンインターナショナルインク配属
2019(令和元)年 12月 レイセオンミサイル&ディフェンス配属
2023(令和5)年 12月 レイセオン日本社長代理
2024(令和6)年 5月 レイセオン日本社長

提供/RTX

井上孝司INOUE Koji

1966年7月生まれ、静岡県出身。1999年にマイクロソフト株式会社(当時)を退社してフリーライターに。現在は航空・鉄道・軍事関連の執筆を手掛けるが、当初はIT系の著述を行っていた関係でメカ・システム関連に強い。『戦うコンピュータ(V)3』『現代ミリタリーのゲームチェンジャー』(潮書房光人新社)、『F-35とステルス』『作戦指揮とAI』『軍用レーダー』(イカロス出版、わかりやすい防衛テクノロジー・シリーズ)など、著書・共著多数。『Jウイング』『新幹線エクスプローラ』『軍事研究』など定期誌や「マイナビニュース」「トラベルウォッチ」などのWEBメディアにも寄稿多数。

Jシップス編集部J Ships magazine

“艦艇をおもしろくする海のバラエティー・マガジン” 隔月刊『Jシップス』の編集部。花井健朗氏・柿谷哲也氏・菊池雅之氏ら最前線のカメラマン、岡部いさく氏・井上孝司氏・竹内修氏ら第一線の執筆陣とともに、熱のこもった記事や特集をお届けしています!

https://books.ikaros.jp/search/g105696.html

bnrname
bnrname

pagetop