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次世代レーダーSPY-6(V)を学ぶ──第2回 海自とSPY-6(V)の関係

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2024-10-11 15:52

前回は、RTX社レイセオン事業が手掛けている新型の艦載多機能レーダー、AN/SPY-6(V)の概要を紹介した。今回は、気になるSPY-6(V)と日本の関係、「では、そのSPY-6(V)を日本で導入することになったら……?」という話を取り上げてみよう。今回もレイセオン ジャパンの社長である永井澄生氏のお話を交えてご紹介する。井上孝司 INOUE Koji

イージス艦以外にも……

 このほか、「こんな案はどうですか」という段階の話だが、「いずも」型DDHが装備しているOPS-50対空捜索レーダーをAN/SPY-6(V)に換装するアイデアがあるという。その場合、設置スペースを考えると、9個RMA構成・3面固定アレイのAN/SPY-6(V)3が現実的であろうか。
 DDHのレーダーは、対空捜索に加えて航空管制の機能も求められており、しかもこれからF-35Bが載ってくる。すると、高性能の対空レーダーを搭載するニーズはある。また、AN/SPY-6(V)が使う電波の周波数帯はSバンドで、OPY-50のCバンドよりも周波数帯が低い。それにより減衰の影響が減って、探知可能距離の延伸に寄与するかも知れない。もっとも、レーダーの性能はそれだけではない。
 「レーダーの性能というのは探知距離だけではありません。精確に捕捉追尾ができるかどうかも大事です。空母のレーダーは航空管制と自己防衛が主な用途ですが、今後、イージス艦でAN/SPY-6(V)を使用するなら、それと共通化して能力を高める選択肢もあると思います」と永井氏も語っている。
 複数の艦種に同じレーダーを使用すれば、訓練、サプライチェーン、メンテナンスの面で大幅な効率化が可能になる。また、部品やレーダーの購入にスケール・メリットを活かした価格設定を実現でき、長期的には日本にとってコスト削減につながるだろう。

「いずも」型の2番艦「かが」。大規模な改修を終えて艦首が四角くなった。F-35B搭載の準備が着々と進んでいる 写真:花井健朗
「いずも」型に搭載されているOPS-50レーダー。国産のアクティブ・フェーズドアレイ・レーダーで、多機能レーダーFCS-3から火器管制機能を省いた派生型 写真:Jシップス編集部

SPY-6(V)によって変化する戦術

 米海軍は現在、分散海洋作戦(DMO : Distributed Maritime Operations)という構想を推し進めている。
 さまざまな艦が一ヵ所に集まって、一つの艦隊を構成するやり方では、敵の対艦ミサイル攻撃などによって一網打尽にされかねない。そこで、艦艇や航空機を広い範囲に分散展開させつつ、それらは互いにネットワークで結び、情報も指揮も一元化する。それを敵軍の立場から見ると、分散展開している米海軍の艦艇や航空機を個別に見つけ出して狩り立てる負担が大きくなる。一方で米海軍の側は、物理的には分散していてもネットワーク化によって一元的かつ一体的に動けることから、集中の利を発揮することもできる理屈となる。
 さらに、共同交戦能力(CEC : Cooperative Engagement Capability)を活用することで、「高精度の捕捉追尾情報をリアルタイム共有して、それに基づくターゲティングを実現」という話も出てくる。これは、NIFC-CA(Naval Integrated Fire Control Counter Air) FTS(From the Sea)のように水平線越しの遠距離交戦に活用する用途が知られているが、それだけのためにCECがあるわけではない。
 広い範囲にわたってCECによる捕捉追尾情報のリアルタイム共有を実現できれば、空母や揚陸艦といったHVU(High Value Unit)にとっては、脅威の飛来をいち早く知って防御態勢を準備する役に立つ。また、離れた場所にいる複数の艦が同じ目標を捕捉追尾して、その情報を融合することで探知精度を高めることもできる。これらもCECによって実現できる能力の一例である。
 米海軍がこういう方向に向けて進んでいけば、当然ながら、共同作戦をとる同盟国にも影響が波及するはずだ。極端な話、米海軍が“分散作戦”を追求するのに、同盟国の艦が昔ながらの“集中運用”にこだわるのでは、共同作戦・連合作戦の足並みが乱れる。共同作戦・連合作戦の下で同じ脅威に向き合うのであれば、同盟国も米海軍のDMOに加わっていく必要があるだろうし、それに見合った道具立てや意識の切り替えが必要になる。こうして海洋戦闘における基本的な思想が変わってくれば、それは当然ながら教育・訓練の分野にも影響を及ぼす。
 実のところ、次世代イージスDDGのレーダーを何にするか、という話だけに矮小化するべきではないのだ。まず、「2020~2030年代の海洋戦闘をどういう思想の下で遂行して、いかにして勝利者になるか」を考える方が先である。それがあって初めて、「海洋戦闘における思想を実現するための手段」である個々の装備の話になるのが筋である。最新のハードウェアだけ揃えれば勝てるという単純な話ではない。

太平洋を航行する「あさひ」型「あさひ」(写真前)とアーレイ・バーク級ジョン・フィン。「あさひ」型は2018年から2019年にかけて建造された汎用護衛艦で、現状では最新型にあたる 写真:USN
海自の汎用護衛艦に搭載されているOPS-24レーダー。国産の対空捜索レーダーで、世界初の艦載用アクティブ・フェーズドアレイ・レーダーである 写真:Jシップス編集部

分散海洋作戦(DMO)の仮説、予測、手段

イラスト:おぐし篤

分散海洋作戦に関する仮説、戦場に与える影響の予測、実施する手段は以下の通り。

◯仮説:艦隊の戦術グリッドを拡大し、艦隊の統合訓練を構築
 ・NIFC-CA(Naval Integrated Fire Control-Counter Air)アーキテクチャを活用し、ネットワークを拡張してセンサーと射撃管制データを増加
 ・艦隊の統合訓練を迅速に構築
◯予測:センサーの貢献度と電磁機動戦の増加、攻撃オプションの分散、戦闘空間の拡大
◯手段:共同交戦モード(Cooperative Engagement Modes)、現在及び新たな脅威に対する能力

DMOでは各艦艇や航空機が距離をとりながらもネットワークで繋がっている。図の射撃艦(左)のように、自分だけでなく他の味方が探知した目標を攻撃するため、目標情報を共有するネットワークを主軸にした作戦であることがわかる

井上孝司INOUE Koji

1966年7月生まれ、静岡県出身。1999年にマイクロソフト株式会社(当時)を退社してフリーライターに。現在は航空・鉄道・軍事関連の執筆を手掛けるが、当初はIT系の著述を行っていた関係でメカ・システム関連に強い。『戦うコンピュータ(V)3』『現代ミリタリーのゲームチェンジャー』(潮書房光人新社)、『F-35とステルス』『作戦指揮とAI』『軍用レーダー』(イカロス出版、わかりやすい防衛テクノロジー・シリーズ)など、著書・共著多数。『Jウイング』『新幹線エクスプローラ』『軍事研究』など定期誌や「マイナビニュース」「トラベルウォッチ」などのWEBメディアにも寄稿多数。

Jシップス編集部J Ships magazine

“艦艇をおもしろくする海のバラエティー・マガジン” 隔月刊『Jシップス』の編集部。花井健朗氏・柿谷哲也氏・菊池雅之氏ら最前線のカメラマン、岡部いさく氏・井上孝司氏・竹内修氏ら第一線の執筆陣とともに、熱のこもった記事や特集をお届けしています!

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