《特集》最先端の防衛ネットワークシステム「IBCS」 メーカー副社長に聞いた、基礎から最新情報まで(2)
- 特集
2025-3-18 11:45
アメリカ軍とポーランド軍が採用した、ノースロップ・グラマン社の最新型・指揮統制システム「IBCS」。そのIBCSについて、最新の話題を折り込みつつお届けする特集の第2弾。前回はIBCSが開発された背景事情について解説した。今回は試験の進捗や、それによって実現した機能・能力についてまとめてみよう。
さまざまな装備を接続して 24回の試射を実施
IBCS(Integrated Battle Command System、統合戦闘指揮システム)というシステムは、ひとつの広域ネットワークを構築して、そこにレーダーをはじめとするセンサー(探知装置)と、地対空ミサイルなどの各種のエフェクター(武器)、そして指揮管制システムを接続する。接続できる機材は特定のものに限られるわけではなく、陸・海・空のそれぞれについて、さまざまな装備が接続試験の俎上に載せられている。

IBCSの防空システムを用いた迎撃ミサイルの試射は、これまでに24回行われており、そのすべてが成功と判断されている。2023年には5回の試射が行われたが、2024年には8回、つまりピッチを上げてきている。
2024年3月に行われた試射では、RTX社レイセオン部門の新型レーダー「LTAMDS」(Lower Tier Air and Missile Defense Sensor、エルタムズ)とロッキード・マーティン製のPAC-3 MSE(Missile Segment Enhancement)ミサイルを、IBCSに組み合わせた。
同年12月にも、IBCSとPAC-3 MSEの組み合わせによる試射に関する発表があった。このときには、戦術弾道弾の迎撃試験を実施したとしている。
同年7月には国際演習 “ヴァリアント・シールド24” において、IBCSにLTAMDSを接続した。LTAMDSのトラック・データをIBCSに取り込み、IBCSの交戦管制ソフトウェア・インターフェイスを通じてSM-6ミサイルを陸上から発射する試験が行われた。
この試験の狙いは、陸軍が持つ能力と海軍が持つ能力を統合して、エフェクターとしてSM-6を利用する可能性を立証することにあった。SM-6は米陸軍が中距離ミサイル発射システムMRC(Mid-Range Capability)ことタイフォン・システムの下で陸上発射型を配備する計画だが、もちろん海軍のイージス艦に搭載したSM-6と組み合わせることもできる。
このほか2024年には、米陸軍が推進している総合的な防空システムIFPC(Indirect Fire Protection Capability)関連の試射も行われた。ターゲットは無人機が2機と巡航ミサイル模擬標的が1発で、エフェクターにはAIM-9Xサイドワインダーが用いられた。
試射を重ねるたび より難しいシナリオに対応
これらの試験では、単に回数をこなすだけでなく、ターゲットの種類が違ったり、組み合わせるセンサーやエフェクターが違っていたりする点に着目して欲しい。さまざまなセンサーやエフェクターを柔軟に組み合わせることができるのが、IBCSの強みであり、それを実際に試している。
ノースロップ・グラマン社グローバル・バトル・マネジメント・レディネス部門バイス・プレジデント兼ゼネラル・マネージャーのケン・トドロフ氏は、「脅威環境の発達に対する迅速な対応、新しいセンサーやエフェクターの迅速な統合を確認できたと認識している」という。また、試射を重ねるにつれて、より難しいシナリオを設定するようになってきている。
「IBCSは生きているシステムです」と、トドロフ氏は言う。
これは、最初に開発した状態・そのままということはなく、常に新たな脅威に対応できるように進化できる土台を備えたシステムである、という意味だ。過去の戦闘経験、あるいは試射で得られたデータに関する学習を継続的に進めることで、常に進化し続けるシステムができる。
ソフトウェア制御だから 迅速なアップデートが可能
「新たな脅威、新たな戦術に対しては、ソフトウェアのアップデートで対応する。それがIBCSに独特の長所だ」
とトドロフ氏は語る。最近になって行われた試射でも、技術者が脅威に適応するためのアップデートを迅速に実施したとのことで、それに要した時間は「○日」ではなく「○時間」というレベルであったという。
それだけ迅速に改善できるということであり、これはソフトウェアで制御するシステムならではの利点といえる。ハードウェア制御では、ハードウェアを作り直してテストして、それを組み込む手間がかかる。しかしソフトウェアなら、新しいソフトウェアを開発して試験を済ませたら、それをロードするだけである。
そして航空機や弾道ミサイル・巡航ミサイルだけでなく、既知の脅威とは大きく異なる飛行速度・飛行プロファイルを持つ無人機(UASもしくはUAV)についても、対処するためのソフトウェアを開発しているという。
このC-UAS(Counter Unmanned Aircraft System)は、近年になって一気に顕在化した課題のひとつ。ウクライナでは宇露両軍が無人機を多用しているし、イエメンではフーシ派が洋上の艦船に向けて無人機と巡航ミサイルをまぜこぜにして撃っている。
これは単に、脅威の種類が多くなっただけの話ではない。速度も、高度も、飛翔形態も、脅威の種類も多種多様ということ。例えば、有人の航空機や無人機は飛翔中に進路変換する可能性が高く、有人の航空機は搭載する兵装を撃ってくるが、ミサイルは自らが突っ込んでくる。無人機はその両方があり得る。さらに極超音速兵器の話もある。すると防空指揮管制の分野では、飛来するさまざまな脅威に対して、適切な優先順位を付けて交戦することが求められる。
オペレーターの負担を軽減 想定外への対応力を保つ
だから、脅威に関する最新の情報を得て、迅速に、それに対処するためのソフトウェアを開発・配布する仕組みを作る必要がある。しかも、イエメン近海で起きているように多数の脅威が一挙に飛来したときには、オペレーターが過負荷にならないように、システム側で支援してやらなければならない。
何十もの脅威が一度に飛来したときに、手作業で個別に交戦の指示を出していたら処理が追いつけない。そこは自動化により、必要最小限の指示で交戦できるように支援する。それがIBCSの仕事となる。
ただし、完全にコンピュータ任せというわけではない。IBCSでは交戦を始める前に、使用する武器や防護の対象などといった「交戦の原則」を、オペレーターがシステムにプログラムする仕組みがある(余談だが、イージス・システムにも似たような仕組みがある)。
また、想定外の状況が発生したときに、オペレーターがシナリオを変更できる柔軟性も求められる。そこで状況を正しく認識して、間違えずに正しい操作を行うために、継続的にユーザー・インターフェイスの改善も図っているという。
「自動化によるワークロード低減が実現することが重要。そこでオペレーターを排除するわけではなく、負担を軽減することが前提となる。完全に自動化すると、却って柔軟性が落ちる」(トドロフ氏)
もちろん、試射を行う度に現場からのフィードバックを得ており、それがその後の改良に反映されることになる。
最終回の次回は、IBCSと我が国の防空体制との“相性”について考えてみたい。
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