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潜水艦修理契約に関する特別防衛監察の結果を報告、処分内容を公表(7月30日)

  • 日本の防衛

2025-7-30 18:55

 防衛省は令和7(2025)年7月30日(水)16時30分、昨年7月から木原 稔(きはら・みのる)前防衛大臣の指示で行われていた、川崎重工に発注した潜水艦修理における特別防衛監察について、その最終結果を報告するとともに関係者の処分と再発防止策を公表した。

 この特別防衛観察は、2024年4月、川崎重工において海上自衛隊の潜水艦乗組員への不正な物品提供等が行われていたことを大阪国税局が同社に対し指摘したことに端を発するもの。同年7月に特別防衛監察が指示され、12月27日に調査状況の中間報告が公表されていた。

(参考写真)川崎造船(現・川崎重工業 船舶海洋ディビジョン)が建造した潜水艦「いそしお」 写真:海上自衛隊

 以下に、リリースの全文と公表された資料の全文または閲覧リンク先を掲載する。なお、資料の掲載順序は入れ替えている。

潜水艦修理契約に関する特別防衛監察の最終報告、関係者の処分及び再発防止策について

 令和7年7月30日(水)、潜水艦修理契約に関する特別防衛監察の最終報告、関係者の処分及び再発防止策について公表しましたので、お知らせします。

潜水艦修理契約事案の懲戒処分等について

 防衛省における潜水艦修理契約事案について、令和7年7月30日付で懲戒処分等を実施したので、お知らせします。

・指揮監督義務違反
【海上幕僚長】海将「減給1月1/10」
 防衛大臣の指揮監督を受け、海上自衛隊の隊務及び隊員の服務を監督する立場にありながら、潜水艦修理契約において、調達・補給手続の改善等の努力がなされなかったこと、職務の公正に対する信頼を害する行為があったことなどにより、防衛省・自衛隊に対する国民の信頼を失墜させた。

・指揮監督義務違反
 訓戒 2名

・職務上の注意義務違反
 訓戒 73名
 注意 17名

(以上)

概要資料

資料:防衛省
資料:防衛省
資料:防衛省
資料:防衛省

特別防衛監察の結果について(概要)

令和7年7月30日 防衛省防衛監察本部

第1 本報告の位置付け(第1)※1

 防衛省防衛監察本部は、中間報告後、海上自衛隊や造船会社の関係者に対するヒアリングをより広範に実施するなどした結果、自衛隊員倫理法等に違反する可能性のある個別事案や造修補給所の監督官の関与の有無・程度等、海上自衛隊において行われていた不適切行為の背景・要因をより深く見定めることができたと判断し、今般、調査結果を改めて報告することとした。
※1 各項目名に続く( )内は、対応する記述を含む報告書本体の項目名を示す。

第2 中間報告後における本件特別防衛監察の対象及び調査の概要

1 本件特別防衛監察の対象等(第2・2(2))
 KHIに加え、中間報告時点で、造船会社が、契約の一部不履行等により作出した余剰資金を原資として、乗組員からの物品要望に対応していた疑いが、潜水艦修理契約のみならず、水上艦を含む艦船修理契約においても生じていたことから、MHI、JMU、SSK等との間における水上艦修理契約についても、同様の疑いに関連する限りで、調査の対象とした。

2 主な調査の概要
(1)造船会社側からの資料の入手・分析(第2・4(1))
 上記各造船会社について、防衛装備庁から、各社が実施した自社点検の結果の提供を受けて精査したほか、随時、防衛装備庁が実施した制度調査における調査結果の提供を受けた。

(2)関係者に対するヒアリング(第2・4(3))
 新規建造中の艦を除く全潜水艦の分隊先任及びパート長等に加え、艦長、副長及び艦内における物品の供用に責任を有する補給長をも聴取対象とした。造船会社側から得た情報により、物品を受領するなどの不適切行為に係る具体的な嫌疑が認められた潜水艦乗組経験者は、異動等により退艦していても聴取対象とした。
 また、造船会社側による契約の一部不履行等が、造修補給所に勤務する監督官の指示の下で行われていた疑いが生じていたため、監督官及び監督官経験者も聴取対象とした。
 このほか、防衛装備庁が、制度調査に関連して聴取を実施した。

第3 中間報告後の調査により判明した海上自衛隊員による不適切行為の概要

1 潜水艦乗組員による不適切行為
(1)KHIの工事主務者(工担)からの物品の提供受け(第4・1(1)、第5・1)
 中間報告後の調査により、潜水艦乗組員が、しばしば、KHIの工担から、①艦内業務用のモニター等及び②艦の整備作業用の塗料、Oリング等の部材等、工具類、雨衣等の提供を受けていたことが明らかになった。KHIとの関係では、さらに、艦内生活で共用するポータブル冷蔵庫等の提供受けのほか、ゲーム機等の私物の提供受けも確認できた。なお、私物の要望は、特定の潜水艦乗組員により行われており、懇意にしている工担に繰り返し私物を要望する傾向が認められた。
 約10名の隊員が、ゲーム機、バイク用レーダー探知機、ドライヤー、キャディーバッグ、空気清浄機能付扇風機、腕時計(ダイバーズウォッチ)、高圧洗浄機、財布、ワイヤレスイヤホン、電子タブレット等を受領していた事実が裏付けられており、その金額は、1人当たりおおむね数万円ないし10万円程度であったが、中には合計で約50万円相当の私物を受領していた者もいた。
 なお、潜水艦乗組員に対するビール券の提供については、個別具体的な事実を特定するには至らなかった。KHIの工担らが、現場作業員又は潜水艦乗組員と酒席を共にし、多めに負担する際に使用するなど、主として、KHI側で費消されたものと認められる。

(2)KHIからの供応接待(第4・1(2))
 新型コロナウイルスの流行を機に潜水艦乗組員側とKHI側とで酒食を共にする機会が激減したこともあり、KHI側から接待を受けたとする近年の事例が見当たらず、領収書等の客観証拠により飲酒飲食が行われた日時・場所・参加者・支払金額等を確定することができなかったため、具体的に特定するには至らなかった。

2 監督官による不適切行為
(1)要望品調達等のための契約の一部不履行等の指示(第4・1(1)、第4・2(1)イウ、第5・1)
 艦船乗組員は、艦船の業務、整備作業、艦船内での生活に使うと思料される物品について、必ずしも適時に、かつ、要望どおりの補給がかなわないことから、直接又は造船会社の工担を介して、監督官に要望することがあり、要望を受けた監督官は、工担にその調達を求める一方、その対価については、工担と調整して、作業箇所や作業面積等を要望品の調達費用に達するように水増しした不実の変更工事指示書を発出した上で、その水増し分の作業を履行させないことなどにより、要望品の調達費用相当額が防衛省から造船会社側に支払われる形としていた。ただし、造船会社側は、その利益を削る形で、いわばサービスとして要望に対応することを余儀なくされる場合もあった。
 架空取引により、会社の備品や工担及び乗組員の私物まで購入されていたKHIとは異なり、MHI、JMU及びSSKの3社については、監督官の要望に基づき工担が乗組員に提供していた物品の全てが、整備作業を含む艦船の業務に供するためのものであった。

 前記1(1)の物品も含め、各社の対応は、下表のとおり。

資料提供:防衛省

(2)契約間の経費付け替えの指示(第4・2(1)エ、第5・2)
 監督官は、限られた期間内に必要な工事を終了させ、当該艦船を運用可能な状態にする目的等から、艦船の検査・修理の過程で、新たに修理等を要する箇所が発見された場合に、その修理等(発見工事)のために正規の手続を履践していては工期に間に合わなかったり、予算の枠内に収まらなくなったりするときに、後日別途の財源措置を講ずることを口頭で約した上、変更工事指示書を発出せずにいわゆる「ツケ」(他契約での後払い)で造船会社に発見工事を実施させることがあった。
 また、艦の突発的な故障等に際しても、正規の手続を経ていては工期に間に合わず運用に影響を与える懸念があるところ、監督官が、臨時修理の契約を行わずに他の契約で架空の変更工事指示を出して、これにより原資を捻出して工事させていた事例も確認された。
 これらは、KHI、MHI及びJMUのいずれにおいても確認された。

(3)私物の要望(第4・2(2))
 KHIとの関係では、3名の隊員(いずれも潜水艦乗組経験者)が、監督官在任中に、工担に私物を要望して受領していた。
 隊員Aは、フィットネスバイク、マットレス、掃除機、腕時計(スマートウォッチ)等(合計約20万円相当)を、隊員Bは、バレーボール用品(合計約5万円相当)を、隊員Cは、腕時計(スマートウォッチ)(約4万円相当)を受領した。

第4 海上自衛隊員による不適切行為に関する評価(第4・3)

 海上自衛隊の艦船部隊は、必要な質・量の物品を、正規の調達・補給手続によっては必ずしも適時に取得できないという問題点を抱えていた(潜水艦については、遅くとも約40年前から継続していたと認められる。)。
 監督官は、このような問題点に対処するための弥縫策として、造船各社の工担に求めて、契約の一部を履行させないことなどを原資として艦船乗組員に物品を提供させてきた。
 監督官が、このように、現場レベルで問題の解消を図ったことは、近視眼的にはやむを得ない部分があったものの、海上自衛隊を俯瞰的に見れば、調達・補給手続を改善するために組織として必要な努力をせず、安易に不正に走らせていたことは否定し難く、その部分は決して正当化できるものではない。
 監督官が、造船会社の工担と調整の上、一部不履行等の不適切な手法を選択したことは、少なくとも、予算執行職員の職務上の注意義務に反するものと評価せざるを得ない。ましてや、KHI関係者に私物を要望して受領する行為は、たとえ、KHI側に具体的な便宜を図った事実が見当たらず、当該私物が具体的に何の対価かはっきりしないとしても、職務の公正とそれに対する社会一般の信頼を害しかねないものである上、自衛隊員倫理規程で禁じられた「利害関係者から物品…の贈与…を受けること」に該当することは明らかであり、その責任は重い。
 そればかりか、結果として、必要のない工事等が当該修理工事の費用として計上されたり、必要な工事等が当該修理工事の費用として計上されずに他の契約に名目を代えて計上されたりすることは、事後の原価調査において、当該修理工事に要した原価を正確に把握することを困難にする。また、艦船乗組員の要望品の調達を特定の造船会社又はその下請業者に依頼することになる結果、競争価格よりも割高な価格で調達が行われる可能性がある。
 さらに、このようにして調達された要望品は、官品としての管理もなされておらず、艦船乗組員の手に渡った後、実際に作業・業務に使われたのか、どのように保管・管理されたのかも全く不明であることはもとより、艦船部隊における物品の充足状況の正確な把握を不可能にし、調達・補給手続の問題点を改善する契機が失われ、その結果、艦船乗組員・監督官による不適切行為が長年継続するという悪循環が生じていた。
 そして、KHIとの関係では、潜水艦乗組員による物品要望、ひいては海上自衛隊における調達・補給手続における問題点が、KHIにおいて長期間架空取引が行われる背景の一つとなったという構図が認められた上、要望しさえすれば高価な私物をも調達できることで隊員の公私混同、綱紀の弛緩や造船会社側との癒着を招きかねない状況につながっていた。

第5 中間報告後の調査により判明した造船会社側の対応の概要

1 造船会社における不適切な原資作出(第5・3)
 艦船乗組員が要望した物品等の提供原資は、KHIが、中間報告で指摘した架空取引によって捻出していたほか、同社、MHI、JMU及びSSKにおいて、契約の一部不履行等(前記第3・2(1))を原資とする手法が用いられていた。
 KHI、MHI及びJMUにおいては、一部不履行を原資として、他の艦船の修理工事を行っていた事例も確認された。

2 物品要望・提供の根絶に向けたMHI・JMUの取組(第5・4)
 MHIでは、平成16年以降、事業所として、造修補給所側に要望をやめるように申し入れるとともに、徹底したコンプライアンス教育を行うなどして、一部不履行等の不適切行為の根絶が図られ、一定の成果を挙げていたが、なお、小規模ながら、物品要望への対応が継続していた。
 また、JMUは、平成25年の現行の信頼性特約の導入を契機として、仕様書に規定された物品等以外は調達しないこと、経費の付け替えや貸し借りを行わないことなどを周知・教育し、徹底を図っていたほか、事業所によっては、工担からの部材等の発注と仕様書・見積書の差異を管理職が確認する手続・体制を構築し、監督官や造修補給所に対する申入れも行っていたが、仕様書外での物品提供が継続していた。

第6 造船会社による対応に関する評価(第5・5)

 造船会社による対応は、実績原価を偽る行為であって、信頼性特約に違反するものであり、決して軽視できるものではない。しかし、契約の一部不履行等を伴う物品提供の発端が、海上自衛隊の調達・補給手続の問題点にあることに加え、①KHIを除き艦船の業務に使用する物品等のみが提供されていたため、必ずしも防衛省が造船会社から大きな経済的損失・損害を被っていたとは言えないこと、②KHIの一部の例外を除けば、造船会社は、提供した物品の仕入原価に付加される粗利分程度の利益を得るのみで、特段の経済的利益を得てはおらず、むしろ利益を削る損失要因でさえあったこと、③一部では、前記第5・2のとおり、物品要望・提供の根絶の取組をしていたのに、海上自衛隊側から押し戻される事態も生起していたことに鑑みれば、防衛省が、指名停止措置のような対象事業者に大きな負担や損失をもたらし得る措置を講じることが果たして公平と言えるのか、慎重な検討が必要である。

第7 不適切行為の背景・要因となる問題及び再発防止策

1 会社に対する措置
(1)KHIに対する措置(第7・1(1))
 中間報告後に、KHIが、潜水艦修理契約及び潜水艦新造契約の全てにおいて、正確に記録・計上せずに集計した実績工数を、防衛省の過去の原価調査等の機会に真正な工数実績として説明するなどしていたことが判明した。
 このため、防衛省は、同社に返納を求めるべき潜在的な超過利益等を算定する過程に、この実績工数の不正確な計上の影響を反映する作業を組み込み、引き続き算定を進める予定である。
 また、この実績工数の不正確な計上は、工事予算の遵守に力点を置いており、過払いの結果を生じさせるものでもなかったことから、文書による厳重注意の措置とし、事案の全体像と総合的・包括的な再発防止策をとりまとめて報告することを求めた。

(2)MHIに対する措置(第7・1(2))
 MHIについては、中間報告時点で文書による注意の措置とし、再発防止策等を取りまとめて報告することを求めていたことを受けて、今般、同社から、これまでに講じた是正措置の状況と、事案についての調査結果及び再発防止策の報告があったため、防衛省から同社に対し、当該報告のとおり、再発防止策を着実に実行していくことを求めた。

(3)JMUに対する措置(第7・1(3))
 JMUについては、一部不履行となっている部分の追加的な履行を求めるとともに、追加的な履行が不可能又は不適切な部分に係る支払額等を算定するための特別調査を実施する予定である。
 また、契約の一部不履行等の不適切な行為については、前記第6で述べた事情に加えて、KHIに比して金額規模が小さく、前記第5・2のとおり、根絶の取組を行っていたこと、造修補給所への忖度等のために自発的な申告の形をとれなかったこと等を斟酌し、文書による厳重注意の措置とし、是正措置を講じるとともに、事案の全体像及び再発防止策を取りまとめて報告することを求めた。

(4)SSKに対する措置(第7・1(4))
 SSKについては、一部不履行となっている部分の追加的な履行を求めるとともに、追加的な履行が不可能又は不適切な部分に係る支払額等を算定するための特別調査を実施する予定である。
 また、契約の一部不履行等の不適切な行為については、金額規模が小さい上に自発的に申告してきたものであることなどを斟酌して、文書による注意の措置とし、是正措置を講じるとともに、事案の全体像及び再発防止策を取りまとめて報告することを求めた。

2 工具類・部材、艦船用備品及び個人装備等の整備・調達の改善
(1)艦船用備品等及び潜水艦乗組員の個人装備の確実な統制(第6・2(1)(2)、第7・2(1)(2))
 潜水艦・水上艦共に、造船会社から仕様書外で提供を受けたモニター等を非正規に設置しており、艦船部隊における備品等の統制は十分でなかったと言わざるを得ない。潜水艦に対する物品等確認調査の結果、取得の経緯を確認できない物品が多数確認されたことや、潜水艦乗組員にあっては、KHIの工担に求めて個人装備をも調達していたことを踏まえると、潜水艦に関しては統制の欠如は顕著であったと言える。したがって、艦船内の備品等の確実な統制の必要性について、艦長以下の艦船乗組員だけでなく、上級部隊、造修補給所等の隊員に十分認識させ、管理を海曹隊員や物品供用官である補給長任せにすることなく、艦長や上級部隊においても状況を把握し、必要な物品は正規の手続により官品の支給を受け、確実な統制の下で艦を運用する意識を醸成することが必要である。
 そして、そのためには、現在の物品の管理状況や物品管理に関する検査等を含めた物品管理の在り方について問題点を分析し、物品管理体制を見直す必要がある。

(2)艦船用備品等及び潜水艦乗組員の個人装備の充実(第6・2(3)、第7・2(3))
 潜水艦に搭載されている備品や官品として支給される個人装備は、過酷な環境下で任務に当たる潜水艦乗組員の切実な要望に十分応えるものとなっていなかったと認められ、水上艦においても、同様に、備品及び個人装備が乗組員の要望に応えられていなかった可能性がある。
海上自衛隊は、現場の乗組員のニーズを容易に吸い上げることができるよう、またその適否の迅速な判断を含め、現在の態勢について分析・検討する必要がある。

(3)調達・補給手続の改善を含めた必要な補給品の提供(第6・2(4)~(6)、第6・5(1)、第7・2(4))
 艦船乗組員が正規の手続により物品を取得するためには、数か月から半年程度の期間を要する場合もあり、限られた期間内で行う必要がある艦船の検査・修理等の実情に合致していなかった可能性が高い。
 また、一部の在庫に欠品が生じた、予算の制約等のため要望どおりの調達が行われないといった状況や、作業で汚損する個人装備の更新周期が長い、乗員整備に必要とする工具・部材等の品目や量が十分でないなどの問題も認められる。
 これらの問題の原因等を的確に把握した上で、艦船乗組員の正当なニーズに適時適切に対応できる体制等、調達・補給の在り方の見直しを含めた検討が必要であり、特に、乗員整備に必要な塗料や油脂類といった消耗品等については、各社とも仕様書に根拠を見いだし難い場合には要望に応じることが困難になると思われ、一部の現場では、期限切れの塗料が使用されるなど払底しつつある状況が確認されていることから、早急な対応が必要である。

3 潜水艦乗組員及び監督官のコンプライアンスの確保・強化
(1)潜水艦修理契約の内容を理解させる教育の必要性(第6・3(1)ア、同(2)、第7・3)
 極めて多くの潜水艦乗組員が、企業側から物品の提供を受けることについて、潜水艦修理契約の範囲内であるという誤った認識を有しており、監督官が要望を認めた物品は、定年検の期間に正規に調達してもらえる物品であると軽信している者も少なくなかった。
 その一方、造修補給所においては、監督官の職務に関する一般的な教育が行われておらず、各監督官が、いわゆるOJTにより職務のやり方に習熟することを求められているのが実情であり、自らの重責を十分理解していないおそれが認められた。
 その結果、潜水艦乗組員は、悪意なく監督官に物品を要望し、これを受けた監督官が、艦の運用に支障が生じかねないなどといった理由でその要望を断り切れず、造船会社の工担に相談して、一部不履行等の不適切な手法により対価を支払うことで要望品を調達してもらうという悪循環が生まれており、潜水艦乗組員と監督官の双方に対し、潜水艦修理契約の内容を理解させる教育を実施する必要がある。

(2)倫理教育の必要性(第6・3(1)イ、第7・3)
 潜水艦乗組員の中には、企業関係者と酒食を共にする場合、厳密な割り勘である必要はなく、少額であっても費用を負担していれば自衛隊員倫理規程違反のおそれは生じ得ないなどと、同規程の内容を曲解している者も存在した。潜水艦乗組員の立場からは、造船会社の関係者は、自衛隊倫理規程に定める「利害関係者」に該当しないため、供応接待を受けることが直ちに同規程違反と評価されるわけではないが、不相当な供応接待を受けている旨の誤解を招きかねない行為は厳に慎むべきであり、こうした視点からの倫理教育も今後求められる。
 今般、私物を受領した監督官がいた事実に照らすと、監督官に対する倫理教育も引き続き徹底して行う必要がある。

4 造修補給所・監督官が有する機能の分離・独立

(1)いわゆる「一人発注・一人検収」構造の解消(第6・4(3)(4)、第7・4)
 造修補給所の監督官は、「監督官」の機能に加え、仕様書案を含む調達要求案を作成する機能を併せ持っているため、一部不履行等を原資とする要望品の提供において、契約担当官等や検査官が実情を知り得ない環境下で、「発注」内容を事実上決定し、それに基づく「履行結果」を適正と事実上認め得る立場にあった。このような現行の業務実態は、KHIが、防衛装備庁の指摘に応じて既に是正した工担の「一人発注・一人検収」と同様に不正が行われやすく、発覚しにくい「不正の温床」と言わざるを得ず、造修補給業務の効率性等によって安易に正当化できるものではない。
 同種事態の再発を確実に防止するためには、前記3によるコンプライアンスの確保・強化のみでは不十分であり、調達要求を行う機能と、監督行為や検査行為を行う職務とを完全に分離して異なる者に割り当て、「一人発注・一人検収」を企図する余地を完全に排除する必要がある。その上で、調達要求と履行監督・検査の機能を組織的にも分立させ、両機能相互の間において、確実な牽制・チェック機能が働く形に見直すことが不可欠である。

(2)監督官の在り方をめぐる問題(第6・4(1))
 潜水艦に関する知識や、乗組員としての実務経験を活用することを期待して潜水艦乗組経験者を監督官に充てる人事自体は必ずしも不適切であるとは言えないが、潜水艦乗組員時代に造船会社の工担等との間で構築された濃密な人間関係が引き継がれることは否定し難い。
 潜水艦乗組経験者を監督官にすることが必要不可欠であるならば、造修補給所の側で、監督官を選任する際に、造船会社の関係者との交際関係等の確認を行うなど、必要な措置を講ずるべきである。

5 仕様書、価格形成手法及び契約方法の見直し(第6・5(2)~(4)、第7・5)
 中間報告において、既に現状の問題点を指摘し、見直しの方向性を提言したところであるが、再発防止策においては、発見工事等に対応して、変更契約に係る価格形成を適正に実施し得る契約方法とする必要があること、工事の実態に整合した適正な工数や、部材、副資材及び補助材料に係る経費を予定価格の算定に反映させる必要があること、部隊運用の観点から先行調達及び事前の作業に要する経費を容認する取扱いに改める必要があること、乗員整備用の工具類・部材等の調達・補給の在り方を検討する必要があること、各艦船の修理契約のために確保している予算が不足しないよう予算の配分や執行計画、あるいはその運用について適正化・柔軟化を図る必要があることを考慮すべきである。

6 海上自衛隊の全ての関係部署における意識改革の必要性(第6・4(2)、第7・6)
 艦船部隊における調達・補給手続の問題点を見直すことができる立場にあった海幕関係部署や補給本部には、基本的に、監督官としてこのような問題点を実体験していた幹部が配置されていたのであるから、より大局的な見地から実効性のある解決策を検討・実行することが期待される。にもかかわらず、個人的利益を目的としていなかった背景もあいまって、残念ながら長年にわたって問題点の見直しがされてこなかった結果、現場で不適切行為が継続されたという構図は否定し難い。
 海上自衛隊においては、以上述べてきたような事態はおよそ国民が是認し得るものではないこと、そして、これが組織としての構造的な問題と言うべきものであることを十分に認識して、全ての関係部署のそれぞれに深刻な問題があったことを真摯に受け止め、それぞれの問題の背景を振り返り、本報告の指摘・提言を踏まえて具体的な再発防止策を策定し、これを着実に実行していくことにより国民からの信頼回復に努めることが不可欠である。

第8 今後の対応(第8)

 潜水艦を始めとする艦船修理契約に係る隊員と契約の相手方との関係及び契約の適正性は、国民の信頼を得て、海上自衛隊が任務を完遂する上で、極めて重要であり、その確保に万全を期さなければならない。
 今後も、防衛監察本部は、海上自衛隊における艦船修理契約に係る隊員と契約の相手方との関係及び契約の適正性について、年度防衛監察等において継続的に調査及び検査する。

特別防衛監察の結果について(全文)

 特別防衛監察の結果について(全文・PDF)

防衛監察本部ホームページリンク先

 防衛省 防衛監察本部

(以上)

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