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石破首相とモディ首相が会談 改定した安全保障協力に関する共同宣言等の成果文書も発表

  • 日本の防衛

2025-9-2 12:10

 外務省は令和7(2025)年8月29日(金)、同日に実施した日印首脳会談及びワーキング・ディナーの概要を以下のように発表した。会談後に両首脳から発表された成果文書の一つ「日本国とインドとの間の安全保障協力に関する共同宣言」の全文も以下に記載する。

日印首脳会談及びワーキング・ディナー

写真:内閣広報室
写真:内閣広報室
写真:内閣広報室

 8月29日、午後6時15分から約90分間、石破茂内閣総理大臣は、訪日中のナレンドラ・モディ・インド首相(H.E. Mr. Narendra Modi, Prime Minister of India)と首脳会談を行いました。また、会談後、両首脳は「日印首脳共同声明」、「今後10年に向けた日印共同ビジョン」等の成果文書を発表するとともに、共同記者発表を行いました。 その後、共同記者発表に続いて、午後8時10分から約60分間、ワーキング・ディナーを行ったところ、概要は以下のとおりです。ワーキング・ディナーにおいては、かつての石破総理のインド訪問時の話などに話題が及び、両首脳間の個人的関係を深める機会となりました。

1 冒頭

 石破総理大臣から、モディ首相の訪日を心から歓迎するとともに、2014年9月にモディ首相が首相として初めて訪日し、日印両国の関係を「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」に引き上げることで合意して以来10年が経過し、この間、日印関係は大きな進展を遂げたことに触れた上で、両国の協力関係には、これを更に飛躍させる多くの潜在性があり、今回の訪日では、日印関係を更なる高みに引き上げるための今後10年の協力の方向性を発信する機会としたい旨述べました。
 これに対し、モディ首相は、日本側の歓迎に謝意を表明するとともに、「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」としての両国関係をさらに発展させ、幅広い分野での日印関係を更に強化していきたい旨述べました。
 また、両首脳は、日印両国が今後、お互いの強みを活かしあい、将来世代が抱える課題の解決に必要となる社会・経済的価値を共創する、相互補完的な関係を構築していくことで一致しました。

2 安全保障・防衛

(1)両首脳は、2008年に発表した「日印安全保障協力に関する共同宣言」の改定を歓迎し、日印を取り巻く安全保障環境の厳しさが増している中、インド太平洋の平和と安定の実現という共通の目標に向け、日印でより大きな責任を果たしていくことを確認しました。
(2)防衛装備・技術分野においては、両首脳は、インド海軍への「ユニコーン」の移転実現に向けた調整が進展していることを歓迎するとともに、早期の移転実現に向けて後押ししていくことで一致しました。
(3)両首脳は、経済安全保障分野についても戦略的重要性が増しており、重要物資のサプライチェーン強靱化を始めとする両国の連携を強化するために、日印で「経済安全保障イニシアティブ」を立ち上げ、産官学による具体的取組を示す「ファクト・シート」を公表しました。

3 経済・投資・イノベーション

(1)両首脳は、2022年に掲げた対印官民投融資5年5兆円目標を3年間で達成できたことを歓迎しました。こうした民間企業の取組を後押しすべく、新たに対印民間投資10兆円目標を掲げるとともに、ビジネス環境整備にも引き続き取り組んでいくことで一致しました。
(2)両首脳は、半導体やAIなどを中心に協力の裾野を広げる重要性を共有し、「日印デジタル・パートナーシップ2.0」及び「日印AI協力イニシアティブ(ジャイ:JAI)」の立ち上げを歓迎しました。また、日本のスタートアップ企業のインドでのビジネス展開支援や宇宙協力の推進を確認しました。
(3)両首脳は、二国間クレジット制度(JCM)の構築に関する協力覚書や水素・アンモニアに関する共同意向表明が署名されたことを歓迎しました。
(4)両首脳は、日印の旗艦事業である高速鉄道事業に関し、その実現に向け、引き続き協力していくことで一致しました。また、モビリティ分野における日印協力を一層強化すべく、防災・レジリエンス、デジタル・スマート、次世代エネルギー等を切り口に協力を発展させていくことを目指し、新たに「次世代モビリティ・パートナーシップ」を立ち上げることで一致しました。

4 人的交流

(1)両首脳は、日印関係の緊密さに比して、日印の人的交流には成長の余地があるとの認識の下、日印人材交流イニシアティブを発表しました。このイニシアティブを通じて、高度人材を始めとするインド人材の力を日本経済の成長や地方創生に活かすとともに、日本で高度・専門的技術を学んだインド人が自国に戻り、インドの発展に寄与するなど、日印間の相互補完的な人材の育成・交流・還流の促進が期待されます。
(2)両首脳は、二国間関係の裾野を広げる観点からの自治体間交流の重要性を共有し、地方自治体間のパートナーシップの推進を首脳間でも後押ししていくことで一致しました。

5 自由で開かれたインド太平洋(FOIP)、日米豪印

(1)石破総理大臣から、基本的価値と戦略的利益を共有する日本とインドは、インド太平洋地域ひいては国際社会の平和と安定に大きな責任を負っており、モディ首相と共にこの責任を果たしていきたい旨述べ、両首脳は、FOIPの重要性を確認しました。
(2)モディ首相からは、日本は重要なパートナーであり、日米豪印を含め、幅広い分野での協力を深めていきたい旨述べました。

日本国とインドとの間の安全保障協力に関する共同宣言

 日本国とインドの両政府(以下「両国」という。)は、共有の価値と共通の利益に基づく日印特別戦略的グローバル・パートナーシップの政治的ビジョンと目標を想起し、自由で開かれ、平和で繁栄し、威圧のない、ルールに基づく国際秩序を堅持するインド太平洋地域にとっての両国の不可欠な役割を強調し、近年における両国の二国間安全保障協力の顕著な進展及び戦略的展望と政策優先事項の進化を考慮し、資源基盤と技術的能力における両国の相互補完的な強みを認識し、国家安全保障及び持続的な経済的活力の増進のために、実践的な協力を強化することにコミットし、インド太平洋地域及びそれを超えた地域における共通の懸念事項に関する安全保障問題について、より深い連携を探求することを目指し、法の支配に基づく国際秩序を堅持することにコミットし、新たなパートナーシップの段階を反映する安全保障協力に関するこの共同宣言を採択し、以下の点について一致した。

1

 以下を含む分野において、防衛当局間の相互運用性および相乗効果を促進することにより、互いの防衛能力および即応態勢の向上に寄与するよう努める。
(1)幅広い分野における、両国部隊間の複雑さと洗練性を増した幅広い分野における二国間共同訓練の実施及び互いの主催する多国間共同訓練への相互参加
(2)統合幕僚監部と統合国防参謀本部との間における包括的な対話のための新たな協議体を設置することの探求
(3)インド太平洋における人道支援・災害救援活動に備えた全軍種間の演習の探求
(4)特殊作戦部隊間の協力
(5)後方支援を共有・支援することを目的とした、日本国の自衛隊とインド軍隊との間における物品又は役務の相互の提供に関する日・インド間の協定の活用の強化
(6)テロ対策、平和維持活動、サイバー防衛など、双方の優先事項の専門分野における協力機会の探求
(7)新たな安全保障上のリスクに関する評価を含む情報の共有
(8)防衛装備品の修理・整備のための相互の施設の利用促進
(9)化学・生物・放射性物質の脅威から部隊と国民を守るための検知、除染、医療対策、防護装備及び対応戦略に焦点を当てた協力機会の探求

2

 インド太平洋地域における平和な海洋環境のため、以下の取組などを通じて、双方が共有する海洋安全保障上の目標を進展させ、海上自衛隊及び海軍間並びに海上保安庁及び沿岸警備隊間の協力を促進する。
(1)インド軍、自衛隊及び両国の海上保安庁/沿岸警備隊に所属する艦艇によるより頻繁な訪問と寄港
(2)インド洋地域情報融合センター(IFC-IOR)及び海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(IPMDA)を通じた、共通海洋状況図の構築に向けた状況把握並びに二国間及び地域的協力の強化
(3)二国間並びにアジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)を含む地域のイニシアティブ及びプラットフォームを通じた、海賊・海上武装強盗、その他の海上における国境を越える犯罪に対する法執行協力の強化
(4)知見の共有及び能力構築を通じた、インド太平洋地域の災害リスクの軽減と備えのための(災害に強靱なインフラに関するコアリション(CDRI)及びアジア防災センターを含む)二国間及び多国間の協力
(5)インド太平洋地域及びそれを超えた地域における第三国に対する、海洋安全保障及び海上法執行に関するそれぞれの支援における連携

3

 国家安全保障に不可欠な分野の強じん化のため、以下の方法などによって、政府機関と民間のステークホルダー間の技術・産業連携を促進、推進する。
(1)両国の現在及び将来の安全保障上のニーズに対応する装備・技術の共同開発・共同生産に向けた防衛装備・技術協力メカニズムの下での相互に有益かつ活用可能な協力の機会の模索
(2)現在及び将来の安全保障上のニーズに対応する特定の能力、スタートアップ企業及び中小零細企業に焦点を当てた、防衛・安全保障分野における定期的な産業交流
(3)双方の運用上のアプローチを効果的に支援する新たな分野における技術の共有
(4)先端技術・機器及びサプライチェーンの連携における協力を促進・推進するための、それぞれの輸出管理政策及び慣行に関する相互理解
(5)戦略的分野における脆弱性の低減、経済的威圧、非市場的政策及び慣行、それらに起因する過剰生産への対応及びサプライチェーン強靱化を含む、経済安全保障に関する重要課題における協力
(6)様々な脅威に対する備え及び抗たん性を強化するための、軍事医学及び健康安全保障分野における協力の機会の探求
(7)日本の防衛装備庁(ATLA)とインドの国防研究開発機構(DRDO)との間の防衛研究開発協力の強化
(8)探査、加工及び精製に関する情報交換や技術を含む、重要鉱物分野における協力

4

 主要な伝統的及び非伝統的な脅威に対する安全保障協力を現代化し、新しく、重要な新興技術がもたらす課題と機会に対応するため、以下の方法などにより、更なる機会を見出す。
(1)情報及び経験の共有を通じた、デジタル分野、無人システム及び最新の情報通信技術の利用を含む、テロ、過激主義及び国際組織犯罪への対抗
(2)AI、ロボット工学、量子、半導体、自律技術、次世代ネットワーク、バイオ・テクノロジー及びサイバーセキュリティなどの技術の進歩に合わせ、安全と完全性を確保した共同研究開発及び産学連携の促進
(3)情報共有を通じた、重要情報インフラの強じん性を含む双方のサイバーレジリエンスの構築
(4)国家安全保障、衛星航法、地球観測及び宇宙分野における相互に取り決めたその他の分野における双方の宇宙システムの利用の拡大
(5)スペースデブリの追跡、監視及び管理を含む宇宙状況把握に関する協力のための協議の実施

5

 以下の方法などにより、地域の及びグローバルな共通の安全保障目標を推進し、関連する多国間及び複数国間の枠組みにおける政策及び立場を調整する。
(1)ASEAN中心性・一体性、ASEAN主導の枠組み及びインド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)への支持並びに地域における互いの戦略的優先事項である自由で開かれたインド太平洋(FOIP)及びインド太平洋海洋イニシアティブ(IPOI)への貢献
(2)インド太平洋地域における、国家主権や領土一体性を尊重する、信頼でき持続可能かつ強じんな質の高いインフラ投資の促進
(3)力又は威圧により現状変更を試みる不安定化をもたらす又は一方的なあらゆる行動への反対並びに国連海洋法条約(UNCLOS)に反映されている国際法に整合的な形での紛争の平和的解決、航行及び上空飛行の自由並びにその他の適法な海洋の利用の支持
(4)日米豪印内の協力の深化及びインド太平洋地域の平和と発展のための日米豪印の積極的かつ実践的なアジェンダの推進
(5)常任及び非常任理事国カテゴリー双方の拡大を含む国連安全保障理事会(UNSC)の改革の推進及び拡大された UNSC の常任理事国としての相互の立候補の支持
(6)国境を越えたテロを含むあらゆる形態及び主張によるテロの非難、テロ活動に対する物質的及び財政的支援の即時停止に向けた協力、多国間フォーラムにおけるテロ対策の協力及び国連包括テロ条約の採択に向けた努力
(7)核兵器の全面的な廃絶、核拡散及び核テロリズムの終結並びにシャノン・マンデートに基づいた、非差別的な、多国間の、国際的かつ実効的な検証
が可能な核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)に関する軍縮会議における交渉の即時開始と早期合意に対する共通のコミットメントを再確認
(8)国際的な不拡散の取組を強化することを目指し、インドが原子力供給グループのメンバーになるための協力の継続

6

 両国の外務・防衛大臣による日印外務・防衛閣僚会合(「2+2」)及び以下のような様々な政府間の安全保障対話を通じて、既存の二国間協議・交流の枠組みを補完・強化する。
(1)日本とインドが直面する安全保障情勢を包括的に把握するための、両国の国家安全保障局長/国家安全保障担当補佐官による年次対話
(2)日本とインドの外務次官による、相互の経済安全保障の強化及び戦略的な産業・技術に係る協力を推進するための戦略的貿易及び技術を含む日印経済安全保障対話
(3)自衛隊とインド軍との間の共同・軍種横断的協力を目的としたハイレベルでの対話
(4)海上保安庁とインド沿岸警備隊の協力に関する覚書に基づく、両国の海上保安庁長官と沿岸警備隊司令官のレベルでの会合
(5)ビジネス連携の可能性を特定するための、日印防衛産業フォーラムの活性化
(6)安全保障上の課題に対する理解を促進し、新たな協力のアイデアを引き出すための日印のシンクタンクによるトラック 1.5対話

(以上)

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