《ニュース解説》国産スタンド・オフ・ミサイルの配備早まる
- 日本の防衛
2025-9-3 16:16
8月29日、防衛省は国産スタンド・オフ・ミサイルの配備計画を前倒しすと発表しました。「12式地対艦誘導弾能力向上型」と「島嶼防衛用高速滑空弾」は、いずれも今年度から配備が始まります。計画詳細と残されている課題について、稲葉義泰が解説します。


2025年8月29日、防衛省は「国産スタンド・オフ・ミサイルの早期整備等について」と題するプレスリリースを発表した。スタンド・オフ・ミサイルとは、敵のミサイルの射程外から安全に攻撃を実施できる長射程ミサイルのこと。防衛省・自衛隊では、トマホークに代表される外国製ミサイルの購入に加え、国産ミサイルの開発、生産も進めている。
今回の発表では、この国産ミサイルに関して開発が順調に進んでいることもあり、そのうちの「12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型)(艦発型)(空発型)」と「島嶼防衛用高速滑空弾」ついて、その配備計画を前倒しすることが明らかにされた。それでは、今回名前が挙げられた装備に関して、まずはその概要を確認していこう。
12式地対艦誘導弾能力向上型
12式地対艦誘導弾能力向上型は、現在陸上自衛隊において運用されている12式地対艦誘導弾の射程を延長するなど、その性能を大幅に向上させた対艦ミサイルだ。現在の12式地対艦誘導弾の射程はおよそ200kmとされているが、能力向上型では、「弾体の大型化による燃料搭載量増加」「大型の展開主翼の付加」「ジェットエンジンの作動領域拡大」などを行った結果、その射程は約1000kmを誇るという。

また、射程延長のみならず、敵のレーダーに捕捉されにくい形状を目指した低RCS(レーダー反射断面積)のための工夫がなされており、その見た目はオリジナルの12式とは全く異なっている。また、目標の位置情報などを逐次更新できるよう、衛星経由でのデータリンクも搭載するなど、長射程兵器の課題の一つである誘導精度の向上も図られている。12式地対艦誘導弾は車両搭載型の発射装置からのみ運用されているが、能力向上型では地上車両(地発型)、艦艇(艦発型)、戦闘機(空発型)という3つのプラットフォームから運用される。
今回の発表では、このうち地発型については令和7年度及び令和8年度に熊本県の健軍駐屯地に所在する第5地対艦ミサイル連隊に配備され、続けて令和9年度には静岡県の富士駐屯地に所在する特科教導隊に配備される予定だという。また、元々は令和10年度以降に予定されていた艦発型および空発型の運用開始についても、前倒しが決定したという。艦発型については護衛艦「てるづき」において、そして空発型は茨城県の百里基地に配備予定のF-2能力向上型において、いずれも令和9年度から運用を開始するという。


ちなみに、防衛省によると地発型については陸上自衛隊が運用している88式地対艦誘導弾及び12式地対艦誘導弾を更新していくために順次配備が進められるものの、「既存の地対艦誘導弾とは能力が異なることから、部隊への配備に当たっては様々な点を考慮する必要があり、必ずしも既存の地対艦ミサイル連隊の配備地に限られるものではない」としている。
島嶼防衛用高速滑空弾
島嶼防衛用高速滑空弾は、島嶼部に侵攻してきた敵の部隊等を遠距離から安全かつ早期に攻撃するための装備で、地上車両から発射後、一定の高度に到達するとブースターから切り離された弾頭がグライダーのように滑空しながら飛翔し、目標に対して直上から攻撃を行う。高度が弾道ミサイルより低いため早期の探知が難しく、また飛翔速度も速く対処時間も限られ、かつ飛翔中は一定の軌道も変更も可能であるため、迎撃が難しいとされる。


島嶼防衛用高速滑空弾は、取り急ぎ現在の安全保障環境に対応するべく性能が限定的な早期装備型「ブロック1」を早期配備する計画だ。ブロック1では、飛翔速度は超音速で、射程距離もおそらく900km程度といったところ。配備部隊は新設の「島嶼防衛用高速滑空弾大隊」とされており、こちらは沖縄や尖閣諸島の防衛を見据え、九州に配置されるとみられている。
一方で、本命となるのが能力向上型の「ブロック2A/2B」だ。能力向上型の飛翔速度は極超音速であり、射程距離はブロック2Aが2,000km、ブロック2Bでは3,000km程度がそれぞれ視野に入ってくるとみられる。配備部隊はこちらも新設となる「長射程誘導弾部隊」で、こちらは本州あるいは北海道に配備されるとみられている。ブロック2A/2Bであれば、本州の北部や北海道の演習場などから南西諸島に侵攻してきた敵を攻撃できるため、従来よりもその安全性は格段に向上することになる。当然、距離が離れれば発射したミサイルが目標に命中するまで時間がかかることになるが、極超音速で飛翔するこの島嶼防衛用高速滑空弾であれば、その問題を飛翔速度で解決することができるわけだ。
今回の発表では、島嶼防衛用高速滑空弾の早期装備型について、これまでは令和8年度から部隊に配備する計画だったところ、これを令和7年度に前倒しして静岡県の富士駐屯地に所在する特科教導隊に配備し、実践的な運用を開始するという。そして、令和8年度には北海道の上富良野駐屯地および宮崎県のえびの駐屯地にそれぞれ島嶼防衛用高速滑空弾大隊を新編し、配備を開始するとのことだ。
なぜ教導隊への配備のタイミングに差異が?
ところで、12式地対艦誘導弾能力向上型と島嶼防衛用高速滑空弾はいずれも運用要員の教育などを行う特科教導隊への配備が行われるものの、そのタイミングが異なっている。前者は、まず部隊配備が行われたのちに特科教導隊へ配備されるが、後者はまず特科教導隊、その後部隊配備という順番となっている。防衛省によると、これは主にそれぞれの装備の性質の違いによるものだという。12式地対艦誘導弾能力向上型は、射程の延伸こそ図られているものの「地対艦ミサイル」という性質に変わりはなく、そのためすでに同種の装備を運用している部隊に配備することは、整備設備を含む運用態勢の観点からも大きな問題は生じない。一方で、島嶼防衛用高速滑空弾はこれまで自衛隊が運用したことのない装備品であり、まずは教導隊において実践的な運用体制を確立することが必要になったとのことだ。

ミサイルだけあっても戦力にならないという問題
こうして加速する国産スタンド・オフ・ミサイルの配備だが、肝心なのはこれが「一連の仕組みの中で機能すること」だ。というのも、上記の長射程ミサイルはあくまで敵を攻撃する手段に過ぎないのであって、攻撃を実施するためには敵を探知し、識別を行い、継続的に追尾することで目標の位置を把握することが必要となる。そして、攻撃の実施後はその効果を確認し、さらなる攻撃が必要かどうかを評価しなければならない。こうした一連の流れを「キルチェーン」というが、これが完成して初めてスタンド・オフ・ミサイルの真価が発揮されることになる。
しかし、防衛省によると、このキルチェーンを構成する目標の探知・追尾・攻撃後の損害評価に必要な「情報収集・監視・偵察(ISR:Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)能力」については、現在のところ無人機や低軌道衛星といった関連装備の配備前倒は計画されていないという。今後、いかに素早く実効的な抑止力を構築できるかは、キルチェーンに関わる装備群の配備および運用態勢の確立に要する速度如何にかかっているといっても過言ではない。

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