日本の防衛と安全保障の今を伝える
[Jディフェンスニュース]

site search

menu

Jディフェンスニュース

防衛装備庁「技術シンポジウム2024」アーカイブ配信を開始(2024年12月24日)

  • 日本の防衛

2024-12-31 14:15

 防衛装備庁は令和6(2024)年12月24日(火)から、公式サイトとYouTubeの公式チャンネルで、2024年11月12、13日(火・水)に開催された「防衛技術シンポジウム2024」のアーカイブ配信を開始した。

 会場で配布したリーフレットのPDF版「発表プログラム」、2日日にわたるオーラルセッションのうち外部参加者の講演を除いたすべてが観られる「オーラルセッション」、会場でのパネル展示・動画展示をPDFとYouTubeで閲覧できる「展示」の3つがある。リンクはこちらから。

 以下には、会場での写真撮影が許可されなかったために開催後の掲載を見送っていた、竹内修氏によるオーラルセッションの紹介文を掲載する。

技術シンポジウム2024 オーラルセッションの注目点

 2024年11月12日(火)と13日(水)の両日、東京都内のホテルで、防衛装備庁の主催する「技術シンポジウム」が開催された。

 技術シンポジウムは、防衛装備庁が進めている研究開発プロジェクトに関する展示と、担当者による研究開発プロジェジェクトの進捗状況の説明や、単なる防衛だけにとどまらない科学技術の現状などを専門家が説明する「オーラルセッション」などから構成されている。ここからはオーラルセッションの注目点をいくつかご紹介しよう。

開催意義は「産官学の連携強化」

出典:YouTube 防衛装備庁 公式チャンネル

 オーラルセッションの冒頭では、中谷元(なかたに・げん)防衛大臣による開幕の挨拶が行われた(ビデオメッセージ)。挨拶の中では、技術シンポジウムの開催意義の一つが、「産官学の連携強化」にあると明言しておられたのが筆者の目を惹いた。
 残念ながら日本では、防衛分野における「学」、つまり大学などの研究機関との連携が弱く、それが防衛技術の進展を阻害する要件の一つとなっている。中谷防衛大臣が技術シンポジウム開催の意義の一つを産官学の連携強化と再定義したことは、より防衛分野での連携を強化しようとする「官」の側から、「学」へのメッセ―ジなのではないかと感じた。

防衛の技術革新と社会をつなげる「イノベ研」

出典:防衛装備庁資料

 防衛装備庁は2024年10月1日に「防衛イノベーション科学技術研究所」(以下、イノベ研。英名称はDefense Innovation Science & Technology Institute、略称DISTI)という機関を発足させた。オーラルセッションでは、同庁技術戦略部長の松本恭典氏により「防衛イノベーション科学技術研究所の創設 ~日本版DARPA(?)の目指すところ~」というタイトルの講演が行われた。
「DARPA」とは、Defense Advanced Research Projects Agencyの略で、日本語では米国防高等研究計画局などと翻訳される。民間の研究機関などに資金を提供して研究を補助し、その代償としての研究管理を行うアメリカ国防総省の特別機関である。
 社会を大きく変える防衛イノベーションの創出と、イノベーション創出の速度を上げるため、民間の外部人材の登用や、民間の研究機関などへの支援を行うイノベ研の役割は、DARPAと重なる部分も少なくない。ただし、日本とアメリカでは防衛に繋がる技術を研究する機関(防衛コミュニティ)の裾野の広がりに大きな差があり、その点がイノベ研にとっての課題であると松本氏は述べている。
 日本は基本的に防衛装備品を極力国産化する方針(国産主義)を掲げているが、研究開発に要する時間が諸外国に比べて長くなるという問題を抱えている。
 イノベ研は、その特徴の一つに「スピード重視」を掲げており、自衛隊の各部隊が必要とするタイミングに迅速に供給するため、イノベ研が率先して国産主義の見直しにも取り組んでいくという松本氏の言葉は印象に残った。

防衛に特化した技術を研究する「新装研」

出典:防衛装備庁資料

 防衛装備庁は、イノベ研の発足と同じ10月1日に、2021年に創設した「次世代装備研究所」を「新世代装備研究所」(以下、新装研)に改編している。オーラルセッションでは所長の鈴木茂氏による「新世代装備研究所の取り組み」という発表で、その役割などについての説明が行われた。
 新装研は次世代装備研究所時代から引き続き、宇宙・サイバー・電磁波領域の防衛装備品の研究に取り組むほか、後述するレーザーやAI(人工知能)の研究などにも取り組む。
 前述したように、イノベ研は民間研究機関などへの支援を行い、防衛にもつながる技術のイノベーション促進を図る機関だが、新装研は、民間の研究機関や企業などには採算性の面などから取り組みが困難な防衛に特化した技術の研究を行っていくという、両者の役割の違いが明確にされた。イノベ研と同様にスピードを重視することも、鈴木氏によって明らかにされた。

担当者の言葉で語られる研究発表

出典:防衛装備庁資料

 冒頭の挨拶、講演の後は2日間にわたって、防衛装備庁で進められている研究の発表が12件行われた。
 装備品に関する発表では、海上自衛隊の新哨戒ヘリコプターSH-60Lに関する発表「哨戒ヘリコプターSH-60Lの開発」が目を引いた。SH-60Lは、現用のSH-60Kに比べて飛行性能が向上していることが明らかにされていたが、発表により飛行性能向上の要因の一つが、エンジンの出力制限値の向上によるものであることが明かされた。
 発表後に行われる来場者との質疑応答では、「艦載ヘリコプターが無人航空機にとって代わられることはないのか」という質問に対して、発表者の装備開発官(航空装備担当)付第2開発室長 中尾親史1等海佐は、「SH-60Lには、SH-60JからSH-60Kの流れの中で構築した資産が活用できるというメリットがあり、その一方で無人航空機にはペイロードなどの面で制約があることから、すぐに哨戒ヘリコプターが無人航空機に取って代わられることはない」との見解を示していた。
 オーラルセッションでは、車両搭載高出力レーザ実証装置やレールガンなどの先端装備品研究の現状についての説明も行われた。
 レーザーとレールガンは、実用装備品とするにあたって、小型で大きな電力を生み出す発電システムをいかにして構築するかがカギとなるが、レイアウトの変更などに加えて民間技術の導入などによって、適切な発電システムの開発を目指していく方針が示された。

会場でしか聴けなかった外部識者の講演

 このほかオーラルセッションでは外部識者による「経済安全保障プログラムの現状と課題」や「量子情報技術の魅力と現状」といったテーマでの講演も行われた。
 この種の講演は防衛庁技術研究本部が開催していたころの技術シンポジウムではありえなかったように筆者は記憶している。
 この種の講演が防衛装備庁の技術シンポジウムで重要視されるようになったのは、防衛が防衛省・自衛隊の占有事項ではなく、より広い範囲の技術と研究を含めた広義の防衛にシフトしている証のように筆者には思えたし、それを実感させてくれることも、オーラルセッションを開催する意義の一つなのではないかと思う。
(竹内 修)

※編集部注:外部識者の講演は、本記事で紹介したアーカイブ配信では行われておりません。

Ranking読まれている記事
  • 24時間
  • 1週間
  • 1ヶ月
bnrname
bnrname

pagetop